news:民訴のネタ:同姓同名の別人を訴える
なりすましや訴えた相手が死んでいたというのは、民訴の典型的なネタなのだが、そのネタに格好の素材が報じられている。
実際に巻き込まれた方々はお気の毒だが、学問的には注目だ。
医療機関債(医療債)を強引に売りつけられたとする男性原告が、販売に関与した男に損害賠償を求める民事訴訟を大阪地裁に起こそうとした際、無関係の別人を提訴していたことがわかった。
原告側弁護士が訴状送達のため、被告の男が以前住んでいた埼玉県志木市に対し、職務上請求で住民票の写しを請求した際、市の担当者が、誤って同姓同名の別人男性のものを出したのが原因。間違われた男性が「人違いだ」とする答弁書を提出して初めてミスがわかった。市は「重大な過ちを犯し、申し訳ない」と平謝り。原告側は訴えを取り下げた。
Xさんが、Yさんを被告として訴えを提起した時に、訴状に同姓同名のY'さんの住所を記載してしまい、Y'さんに送達されたため、Y'さんが「俺は知らない」という答弁書を提出してきたというわけである。
この場合に、上記の原告は訴えを取り下げてしまったのだが、それだと訴状に貼った印紙は無駄になる。また、場合によっては時効が完成してしまうという不利益が生じることもある。
元の訴えを生かして、当事者はYさんだということに出来ないか?
これを当事者の確定という論点で扱っていることは、すべての法律実務家がノスタルジーとともにおもいだすことだろう。
実際、この場合のXさんは、Y'ではなくてYを被告とする意思で訴えを提起したのだから、Yが被告だという考え方もありうるが、訴状の当事者欄にはYとあるのであり、ただ住所が間違っていたというだけなのである。そして、訴状全体の趣旨からしても、Y'ではなくYを被告とする趣旨は明らかなのであろう。だからこそY'は人違いだと言っているわけである。
だとすれば、訴状の記載を基準に当事者が誰かを決める通説(表示説)の立場からしても、訴えを取り下げるまでもなく、訴状の住所の記載を訂正して、送達からやり直せば足りるであろう。
こうすれば少なくとも訴え提起の手数料は無駄にならなかったはずだ。なぜそうしなかったのだろうか?裁判所が認めなかったのかな?
| 固定リンク
「法律・裁判」カテゴリの記事
- Arret:欧州人権裁判所がフランスに対し、破毀院判事3名の利益相反で公正な裁判を受ける権利を侵害したと有責判決(2024.01.17)
- 民事裁判IT化:“ウェブ上でやり取り” 民事裁判デジタル化への取り組み公開(2023.11.09)
- BOOK:弁論の世紀〜古代ギリシアのもう一つの戦場(2023.02.11)
- court:裁判官弾劾裁判の傍聴(2023.02.10)
- Book:平成司法制度改革の研究:理論なき改革はいかに挫折したのか(2023.02.02)
コメント