DVと民事手続法とはどう関係するのか
DV、すなわち家庭内での主に夫婦間の暴力の問題は、もちろん暴力事件であるから、刑事事件として加害者が捕まるのがスジである。このことからは、民事手続法にDVは関係無さそうにも見える。
しかし、DVは民事法・民事手続法にとっても、検討に値する紛争類型の一つである。
最近のこの本では、各法分野からDV問題を扱っているが、民事訴訟法専攻の研究者は私の他に長谷部由起子先生が論文を発表しておられるし、また民法専攻の研究者としては上北正人先生と立石直子先生が論文を書かれている。
立石先生は家族法の観点から、上北先生は財産法の観点から、DVと保護命令を検討されている。
民事手続法の立場からは、夫婦間暴力であれば離婚手続が関係する。加えてDV防止法に定められた保護命令(接近禁止命令・退去命令・つきまとい等の行為禁止命令、子どもや親族への接近禁止命令)は、特殊な民事手続として注目に値する。
保護命令の手続に関しては、民事訴訟法が準用されており(DV防止法21条)、基本的に被害者が加害者を相手方として裁判所に申し立てる二当事者対立構造をとる。
もちろん一般の判決手続とは性格が異なり、訴訟ではなく非訟であり、公開・対審の保障はない。しかし、争訟性を有する民事手続であり、その決定によって相手方には不利益が課されることから、担当する裁判所は中立公平な立場にたち、不利益の強制を正当化するに足りる要件の充足を必要とすると考えるであろう。
このことは裁判所としては当然のようにも思えるが、DV防止法が対等な二当事者を前提とする手続ではなく、被害者と加害者という属性を持ち、被害者を保護するという目的で作られた制度であることを思い起こすと、中立公平すらも必ずしも当然ではない。
被害者なのかどうかという認定のレベルでは、争いがあれば慎重に審理判断すべきだが、そこでも仮差押えや係争物仮処分のように、とりあえず申立人の言い分に基いて決定を下し、不服申立てがあれば実質審査をするということも考えられる。(ただしこれは退去命令には当てはまらないが。)
要件解釈や命令の内容についても、基本的には非訟手続であるから、当事者ごとの最善の解決を実現するためによりよい手段を選択するという見地から、暴力や脅迫の程度に応じて、特に被害者の安心安全を図るのに最善の命令を下すべきである。
そもそも裁判所が裁量により最善を図ることなど期待できないという向きもあるかもしれないが、それを言い出すと、そもそも司法による救済など期待できないということになり、現在の日本法とは相容れない議論である。個別の判断に対する批判はあり得ても、制度的には、司法に期待するしかない。
このように、DV保護命令は民事手続のあり方として特殊ではあり、単純には割り切れない。法のDV被害者保護という目的にかなった解釈適用が必要である。
なお、立法論は別論であり、より良き制度を目指して、民事手続の枠を超えた抜本的な改革が必要であろう。これについては、明日、4月22日の午後6時から、東京の弁護士会館2階で開かれるシンポジウムで一端を発表する予定である。
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