arret:権利濫用新判例
事案は、渋谷駅前の地下1階地上4階建ての建物の地下1階部分を賃借して、そば屋を営むYが、建物所有者Aの承諾の下に、1階部分の外壁等にそば屋の看板、装飾、ショーケースを設置していた。ところがその建物全部を譲り受けたXが、Yに対し、所有権に基づき、地下1階部分の明渡し及び賃料相当損害金支払いとともに、上記看板等の撤去をも求めた。
前々所有者Aは昭和34年から所有していたというから、相当に古いビルである。
Xは、AからBを経て所有権を取得したが、その売買契約にはYの設置している看板等も記載されていたという。
このような事実関係において、最高裁は、看板等に対するYの必要性の強さと、売買時におけるXの看板等に対する認識可能性、看板設置箇所に具体的利用目的がないことや看板があることでの支障のなさを指摘して、Xの請求は権利濫用であるとして請求を棄却した(一審判決支持)。
これだけ読むと、まあそうかなと、その利益衡量については納得するのだが、権利濫用としてはやや軽いようにも思われる。権利濫用の一つの典型としては、シカーネの禁止と呼ばれる類型があり、要するに嫌がらせ禁止ということだが、上記の事実関係では具体的にXとYとがどのような交渉をして決裂して本件訴訟に至ったのかが明らかではなく、単なる権利行使にYが不利益を被る場合にすぎないのではないかという疑問も禁じ得ない。
Xの方に不当な目的、例えば看板等の設置継続を認めて欲しければ賃料を3倍にしろなどという要求があったのかとか、そのような事情が全く現れていない。
原判決や第一審がそうした事実を認定していないというのであれば、破棄自判ではなく破棄差戻しが相当と思われるが、自判した以上は、そうした事情が権利濫用の適用に必要ない、客観的な当事者の利益状況からでも権利濫用の適用が認められると、そういうことになりそうである。
さて、田原裁判官の少数意見は、補足意見とあるが、実は「意見」ではないか?
権利濫用というよりも、借地借家法31条の解釈で、YはXに対して店舗部分の賃借権を対抗できる上、「看板等に表示する権利も当然に対抗することができる」としているのであり、結論には賛成でも理由は異なるのではないか?
権利濫用は補充的な法理であるとすれば、借地借家法の解釈から請求棄却を導けるというのであれば、権利濫用は出る幕がないはずである。とはいえ民訴法的に言えば、適用の優先関係はないともいえるだろうが。
あと、仮執行宣言を付けたことについても田原裁判官は原判決を強く叱責しており、この部分に現れる最高裁裁判官たちの怒りの感情が、権利濫用の法理の適用に現れているようにも思われる。
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