arret:刑事裁判における電子メールの扱い例
刑事裁判における電子メールの証拠としての取り扱い例を指示した最高裁決定である。
電子メールを刑事裁判の被告人質問の際に示して、これを被告人供述調書に添付したという場合に、その電子メールの内容を有罪認定の証拠とできるかという問題であり、高裁は積極に解したところ、最高裁は消極に解した。
本件電子メールは,刑訴規則199条の10第1項及び199条の11第 1項に基づいて被告人坂上に示され,その後,同規則49条に基づいて公判調書中の被告人供述調書に添付されたものと解されるが,このような公判調書への書面の添付は,証拠の取調べとして行われるものではなく,これと同視することはできない。したがって,公判調書に添付されたのみで証拠として取り調べられていない書面は,それが証拠能力を有するか否か,それを証人又は被告人に対して示して尋問又は質問をした手続が適法か否か,示された書面につき証人又は被告人がその同一性や真正な成立を確認したか否か,添付につき当事者から異議があったか否かにかかわらず,添付されたことをもって独立の証拠となり,あるいは当然に証言又は供述の一部となるものではないと解するのが相当である。
こうした一般論に基づき、本件電子メールに関しても、「証拠として取り調べられていない本件電子メールが独立の証拠となり、あるいは被告人の供述の一部となるものではない」とし、「本件電子メールは,被告人の供述に引用された限度においてその内容が供述の一部となるにとどまる」と判示した。
後者については先例として最決平成23年9月14刑集65巻6号949頁が引用されている。
この先例は痴漢事件で写真が証拠として事実認定に用いられたのかどうか争われたものであり、弁護側は証拠採用に反対していた。これに対して証人尋問に写真を示した上で尋問調書に添付したことの当否が問題となった。本エントリで取り上げている決定に関係する部分としては、以下のように判示されている。
本件において証人に示した被害再現写真は,独立した証拠として採用されたものではないから,証言内容を離れて写真自体から事実認定を行うことはできないが,本件証人は証人尋問中に示された被害再現写真の内容を実質的に引用しながら上記のとおり証言しているのであって,引用された限度において被害再現写真の内容は証言の一部となっていると認められるから,そのような証言全体を事実認定の用に供することができるというべきである。このことは,被害再現写真を独立した供述証拠として取り扱うものではないから,伝聞証拠に関する刑訴法の規定を潜脱するものではない。
というわけで、結局、独立した証拠として採用することは、そのための手順と法則に従う必要があるが、本件ではそうした手順を踏まない以上証拠として事実認定に用いた第一審判決には違法があるということである。
ただし、上記はいわば傍論であって、結論としては判決に影響を及ぼす違法ではないとして上告棄却されている。
ところで、この決定文、被告人の氏名がなんら仮名処理されることなく掲載されている(上記引用ではそこだけ削除した)が、いいのか?
最高裁ならなんでもやり放題ということであろうか?
それとも、刑事被告人の氏名は公開情報だからネットに載せてもいいという方針に変わった? あるいは単なるうっかりさん?
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