ADR:住宅トラブルの補償
めったに使えない「明るい法律の話題」として、住宅建築トラブルに関するADR(の一種)を紹介しよう。
昨日の消費者庁主催ホクネット実施シンポジウムで、パネリストとなった北海道宅地建物取引業協会の方が紹介されていたのが、全宅保証=公益社団法人全国宅地建物取引業保証協会である。これは、宅建業法64条の2に基づくもので、宅建業者の約8割が加入している。
全宅保証の業務は、宅建業法64条の3が以下のように規定している。
宅地建物取引業保証協会は、次の各号に掲げる業務をこの章に定めるところにより適正かつ確実に実施しなければならない。 一 宅地建物取引業者の相手方等からの社員の取り扱つた宅地建物取引業に係る取引に関する苦情の解決 二 取引主任者その他宅地建物取引業の業務に従事し、又は従事しようとする者に対する研修 三 社員と宅地建物取引業に関し取引をした者(社員とその者が社員となる前に宅地建物取引業に関し取引をした者を含む。)の有するその取引により生じた債権に関し弁済をする業務(以下「弁済業務」という。)2 宅地建物取引業保証協会は、前項の業務のほか、社員である宅地建物取引業者との契約により、当該宅地建物取引業者が受領した支払金又は預り金の返還債務その他宅地建物取引業に関する債務を負うこととなつた場合においてその返還債務その他宅地建物取引業に関する債務を連帯して保証する業務(以下「一般保証業務」という。)及び手付金等保管事業を行うことができる。
3 宅地建物取引業保証協会は、前二項に規定するもののほか、国土交通大臣の承認を受けて、宅地建物取引業の健全な発達を図るため必要な業務を行うことができる。
このうち1項1号に規定されている苦情の解決が、いわゆるADRに相当する部分で、宅建協会の都道府県組織が設置する「不動産無料相談所」というところで苦情相談を受け付けている。
苦情相談は会員たる宅建業者との調停に直結しているようで、苦情が宅地建物取引に関わる所管事項である場合には、当該業者に対する説明要求や資料提出要求も行われ、業者側はこれを拒むことができないとされている。
その上で自主的解決ができない(つまりは和解が成立して任意に履行されない)ばあいには、「弁済認証」という手続に進むとされている。
この「弁済認証」というのは、すぐ払ってもらえるというのではなく、全宅保証の内部で「損害の補填を受ける権利の存在及びその額を確認し証明する」審査手続(これを「認証」と称している)を経て認められた損害について、1000万円を限度とする補償(これを「弁済」と称している)する制度のようである。
この審査手続をどのような組織と手続で行わっているのかは、ウエブサイトからは明らかでない。
実際の解決がどれほどなされているか、については事業報告書がある。
平成23年度の事業報告書pdfによれば、同年度中に受け付けた苦情申出は365件(いわゆる新受件数)で、内容は宅建業者の「債務不履行に基づく支払済み金員の返還請求や損害 賠償請求、物件の瑕疵に起因する申出が多かった」とされている。
これに対して同年度中の既済件数は431件で、その内訳は話し合いがついて解決ないし苦情申出撤回に至ったのが190件(44.1%)、弁済認証手続に移管されたのが234件(54.3%)、上記の限度額を既に先に申出があった取引先への弁済で使いきってしまったため弁済されなかったものが7件あったという。
紛争解決と、事業者が倒産して自ら弁済できない場面を対象としているので、倒産処理手続としての意味もあるが、そこでは債権者平等ではなく先行者優先主義をとっているようだ。
解決に至った金額は、あまり判然としないが、以下のように記載されている。
平成23年度に処理された案件における申出債権(申出人の請求額)の総額は3,364,386,900円であった。そのうち宅地建物取引に関する債権と推計した金額は573,361,037円であり、1件あ たりの債権額は約133万円であった。また、地方本部により紛争解決した事案や当事者間にて自主解決した事案の解決金額(解決内容を金額換算)は115,330,558円であった。
この他、この協会では手付金の保管制度と保証業務も行なっており、宅地建物取引関係のトラブルには消費者の強い味方となっている。
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