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2013/02/06

民事訴訟法92条の実例--徳田政務官辞任事件

政界スキャンダルの内容自体は、ここでは問題としない。
詳細を伝えた産経の記事で、普段あまり実例にお目にかからない経緯が現れているので、民訴教材として紹介しておく。

産経:「泥酔状態で無理やり性的関係」と主張 当時19歳女性が提訴、1千万円で和解成立

訴訟の内容はもう見出しで尽きているが、その和解成立後のこととして、以下のように書かれている。

この訴訟内容について、徳田氏側は東京地裁に記録閲覧制限を申し立て、地裁がこれを認める決定をしたため、内容は一切外部に漏れない形で封印されていた。

ここに出てくる「記録閲覧制限」の根拠規定が、以下の条文だ。


(秘密保護のための閲覧等の制限)

第九十二条  次に掲げる事由につき疎明があった場合には、裁判所は、当該当事者の申立てにより、決定で、当該訴訟記録中当該秘密が記載され、又は記録された部分の閲覧若しくは謄写、その正本、謄本若しくは抄本の交付又はその複製(以下「秘密記載部分の閲覧等」という。)の請求をすることができる者を当事者に限ることができる。

一  訴訟記録中に当事者の私生活についての重大な秘密が記載され、又は記録されており、かつ、第三者が秘密記載部分の閲覧等を行うことにより、その当事者が社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがあること。
(以下略)

前提として、訴訟記録は、誰でも、誰の事件でも、閲覧をすることができるという建前になっている(民訴91条1項)。もっともそれではプライバシーや営業秘密に関する訴訟が提起されれば、それらの秘密を保持することができないので、例外的に、閲覧制限を決定で定めることができるとしたものだ。

今回の事案、徳田氏が泥酔状態の未成年女性に性的関係を強要したという事実は「当事者の私生活についての重大な秘密」に該当するだろうし、しかもそのことが暴露されることで徳田氏の「社会生活を営むのに著しい支障」が現に生じたであろうから、まさにこの規定の要件を満たすものだったということができる。

問題はここからで、今回のような事件が閲覧制限により隠されるべきなのかどうかである。
一般私人であればともかくとして、国会議員あるいは政務官という立場にある人であれば、そのプライベートな行状で名誉を失墜するようなスキャンダルは、公共性があって公益目的での暴露が許されるというのが法の規定だ。
このことは、表現の自由を守るという観点からも、また国民の知る権利という観点からも、事実を明らかにする利益が一方にあり、それと個人の名誉・プライバシーを守る要請との調和点と解される。

しかし上記の民訴法の規定には、そうした例外は設けられていないので、一方的に名誉・プライバシーの保護に偏っており、政治家などの行状で公共の利害に関する事項でも隠されるという事態を招いているわけだ。なお、徳田氏の相手方である原告女性の側のプライバシーの問題もあるので、通常の名誉・プライバシー侵害のケースよりさらに複雑ではある。

解釈論的に、名誉棄損の例外たる公共性・公益目的、真実または真実と信じるについての相当性があれば閲覧制限を認めないということも一応は可能だが、この要件は名誉ないしプライバシーの侵害が行われた後に、その責任の有無を判断する場合に、問題の表現の内容を見て判断するものだ。閲覧制限に異を唱える閲覧希望者の側で、記録内容が公共性・公益目的ありと主張立証するのは、閲覧できない段階では無理だし、裁判所が独自に判断するというのも、無理がある。

結局、閲覧制限を求める側が、公共性・公益目的がないことを主張立証すべきということになる。

この状況、発信者情報開示請求権に関する解釈で、開示を求める側が名誉の失墜のみならず、そのことに公共性・公益目的がないことを証明せよというのと似ていて、いささか落ち着かないところではある。

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コメント

今度は縄野雅夫さんですか?

投稿: * | 2013/02/07 17:49

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