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2013/01/11

justice:医薬品ネット販売規制の省令が違法との判決が維持されても法改正で対抗

行政権と司法権との権力闘争は、アメリカではよくあることだが、三権遠慮主義の我が国では珍しい。

ところが、医薬品ネット販売規制をめぐる裁判と行政庁の対応は、珍しく司法判断に政治が抵抗する構図となりそうだ。

産経:政府、市販薬ネット販売規制へ薬事法改正 最高裁の省令違法判決見通しに対応

薬事法の下で、医薬品ネット販売規制は省令により実施されたわけだが、以下の判決はこれを違法としてネット販売ができることを確認した。

東京高判平成24年4月26日WLJ(判決全文PDF)

極めて長い判決だが、要するに薬事法が定めた情報提供義務について、省令でネット販売をできなくすることまでも許容するものとは解されないとして、ネット販売ができる地位の確認を認めたものである。

そして最高裁は、本日、口頭弁論を開くことなく判決を言い渡すことにしているので、この高裁判決が維持されるものと考えられる。

これに対して上記の記事によれば、政府は薬事法を改正してネット販売が出来ないようにしようとし、さらにこの判決は原告となった二社にのみ効力が及ぶので、原告以外の業者には省令の効力が今までどおり及ぶと解するというのである。

薬事法の委任の範囲を超えた違法な省令だという判決であるから、それなら法律を変えればよいというのは自然の流れではある。ただし、規制が合理性を欠き違法だとの判断を実質的にしているにも関わらず、その判断を法制定を以って覆そうというのであるから、司法と行政・立法とがそれぞれの権限を前面に出して権力闘争をしている姿が明瞭になった。

統治機構的には極めて興味深い。これと同様の事例は、利息制限法の解釈で制限利率を超過して支払った利息についての不当利得返還を最高裁が認めたのに対して、貸金業法等を改正し、任意に支払った超過利息は一定の要件の下で返還しない旨の規定を立法して対抗したというのがある。この時は、しばらく立法府・行政府の思い通りになったが、やがて「任意」の要件を極めて厳しく解することにより、再び超過利息の過払い金返還請求が認められるようになるという、裁判所の側からの反撃があり、現在に至った。

このように行政・立法の政策判断に対して、解釈権限で裁判所が対抗することは、小さなものなら結構あるが、行政事件ではほとんどなく、それでも裁判所の解釈・適用が行政・立法の判断を是正した場合は行政・立法の側がそれに従うのが通例といえる。
ところが、今回の医薬品ネット販売規制については、どうもそうならず、立法をもって対抗することになるようだ。

すると次の司法府のリアクションがどうなるかが興味のあるところだ。薬事法改正をもってネット販売が出来ないようにした場合、今度は憲法判断ということになる。平等条項(14条)や営業の自由(29条)に照らし、ネット販売が出来ないようにする法律は合憲か違憲か、注目される。もちろん事業者が訴えたら、ということだが。

次に、記事で「省令は2業者のみに無効となるが、ほかの業者には効力が及ぶ」との立場を取る方針が示されている点は、問題がある。
 判決の効力は相対的にしか及ばず、従って省令にかかわらず販売する地位が判決効により認められたのは原告のみである。訴訟法的には正しい。
 しかし、省令が、特定の事業者には適用されないのに、それと同じことをする他の事業者には適用され権利自由を制限するというのでは、その法執行は憲法14条に真っ向から反することになる。尊属殺重罰規定の違憲判決が下された後も、判決効としては刑法200条を無効とする一般的効果がなかったにもかかわらず、法執行機関は尊属殺規定の適用ができなくなったことを思い起こすがよい。刑事判決の効力と民事・行政判決の効力とは異なるが、法執行機関による「法の下の平等」遵守という点では共通する。

 上記の政府方針なるものは、訴訟法上の判決効の及ぶ範囲の問題と、実体的な、憲法の適用を受けた行政法解釈の問題とを混同したとの批判を免れない。頭の良い官僚のことだから、分かってて敢えて混同して行政府の立場を正当化しようとしているのかもしれないが。

(いくつか推敲と誤字修正済み11:55)

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コメント

1月11日最高裁判決直前の産経新聞記事を見て、ビックリした者の一人です。昨年の東京高裁判決後、ある薬剤師さん(旧厚生官僚)から「薬事法そのものに対面販売の原則(ネット販売規制)を盛り込むのが今後一番の対処方法である。」という趣旨の話を聞いたことがあるからです。薬剤師の立場からすれば、権益を守るためにそのような発想をするのは当然だろう、と当時はその話を聞いていました。産経記事は、政府方針としてまさにそのことを書いていました。先生の本ブログでも、司法に対し、行政と立法が結託して権力闘争をしようとしている、と指摘されています。昔の行政通知(薬事法薬局適正配置規制違憲判決を受けた改正薬事法(昭50法37)施行通知(昭50.6.28薬発561))を調べてみると、医薬品のネット販売規制は、厚生官僚が「ネット販売は医薬品の流通、薬局等の経営に影響を及ぼすような事態」と判断し、薬局等の経営の安定等を期するために法令改正を行ったということが、上述局長通知の記載内容から浮かび上がってきます。厚生行政には、このような官僚の基本的スタンスがありますので、先生ご指摘のように今後の展開にはまさに注目している次第です。

投稿: 高田東之夫 | 2013/01/12 16:29

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