« cinema:最強のふたり=Untouchable | トップページ | cinema:もうひとりのシェークスピア »

2013/01/04

Big-dataの選挙利用と思想信条の自由

バラク・オバマの再選には、ビッグデータの活用が大きく役立ったようである。

ZDNews Japan 世論調査の限界を超えろ--オバマ陣営のデータ戦略は「有権者を一人ずつ数える」by 三国大洋

この紹介記事と、その前の同一執筆者の「バラク・オバマ版『マネーボール』 大統領選勝利の鍵はビッグデータの徹底活用」によれば、小口のネット寄付を働きかけるにせよ、テレビコマーシャルの時間を選ぶにせよ、投票結果の予測にせよ、特定の有権者層にウケる政策のパッケージ選択にせよ、資金集めパーティへの参加者を募るのに効果的な芸能人の選択にせよ、個々の有権者の氏名を名寄せして、ボランティア運動員との接触記録、前回選挙における投票記録、ネット上のオバマ陣営との接触記録などをまとめあげ、「(有権者)個々人の関心にあわせたメッセージを伝えることで、選挙運動のボランティア参加、献金、投票など、想定した目標を達成」しようとするアプローチが取られているという。

その結果、ボランティア運動員にオバマに投票すると答えた有権者には献金を依頼するショートメールメッセージが送られ、その隣人で失業中の人にはオバマの失業対策政策を説明するといった活用がされる。
あるいはケーブルテレビの視聴者データから誰がいつどのような番組を見ているかを分析し、その有権者層に効果的な時間と内容のテレビ・コマーシャルを投入することで、特定の層にウケる内容をその層に伝えることを可能にし、効果を高めている。

記事の中には「有権者のプライバシーを侵害しないようにしながら、個々人の視聴履歴データを使えるような仕組みをつくった」という引用も出てくるが、個々人の視聴履歴データを収集し、上記の名寄せ済みデータと組み合わせて、その有権者に効果的なメッセージをメールで送るというような使い方をすれば、プライバシー侵害しないようにというのはほとんど不可能であろう。せいぜい集めたデータが公開されたり漏洩したりしないようにするという意味と思われる。

なお、同記事が引用するHow President Obama’s campaign used big data to rally individual votersも参照。

さて、ビッグデータという言葉はネット上を流れる膨大なデータを指す。このデータを収集分析し、全体傾向を抽出したり、特定人の傾向を抽出したりして、様々な活動に役立てることが期待されているわけだが、まずはマーケティングに活用することが先行し、かつ注目されてきた。
上記記事では、商業活動におけるビッグデータ活用の手法と経験が選挙活動へも有用であることを如実に示している。

特に個々の有権者を特定して、その行動履歴や思想傾向を分析し、自陣への投票や寄付につなげるため効果的なアプローチをするということ自体は、従来の選挙運動と大きく異るところはない。顔の見える狭い地域社会では、日本でも実際にそのようにしてやられてきたし、票読みなども、誰それが入れる入れないという予想を元に正確に行われてきた。
ただそれが国政選挙レベルになると、個々の有権者を特定したデータが得られにくくなくなり、精度も落ちる。特に無党派層は既存の選挙組織との関係が薄いだけに、アプローチも困難となる。
そのつながりを、ネットを通じて補完し、さらに様々な行動履歴データを応用したというのが新しいのであろう。

上記記事に対して、日本ではネット選挙が禁止されているからこれはできないが、解禁されたらできるようになる云々という反応も散見されるが、これはかなりの誤解だ。データ分析自体は今でも全く自由だし、選挙運動での戸別訪問がダメなだけだ。上記記事のキモは、データ分析を徹底することで個々の有権者それぞれに効果的なアプローチができるという点だから、例えば寄付呼びかけなどには今でも活用できる。

ネット選挙が解禁されてもメールによる投票呼びかけは禁止される可能性が高いが、その点は日本の場合の限界となるかもしれない。
しかし、解禁されれば良いというものでもない。今でもスパムに悩まされているのであるから、選挙スパムまで加わったらうるさくてかなわんと、私も思う。

それにしても、単に選挙キャンペーンに用いるということを超えて、個々人の政治的な思想信条を把握し、これに干渉していくという手法だけに、権力がこれを活用し始めたらたちどころに思想信条の自由の侵害へと結びついていくだろう。
これにネット利用時の約定でデータ利用を承認するという甘々の同意調達モデルを組み合わせて正当化されたら、やはりたまったものではない。オープンなSNSのテキストなどをマイニングされるのは止むを得ないが、これにWEB閲覧履歴などを組み合わせたり、監視カメラをはじめとするセンサー系のデータを組み合わせたりして活用されれば、相当に息苦しい世界となるのではあるまいか?

ビッグブラザーの世界はどんどん現実化しているのである。

|

« cinema:最強のふたり=Untouchable | トップページ | cinema:もうひとりのシェークスピア »

経済・政治・国際」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: Big-dataの選挙利用と思想信条の自由:

« cinema:最強のふたり=Untouchable | トップページ | cinema:もうひとりのシェークスピア »