« jugement:共有物分割訴訟 | トップページ | jugement:主観的予備的併合を適法と認めた事例 »

2012/12/12

police:取調べ過程の録音録画

警察庁が取調べ過程の録音録画の試行検証結果をまとめている。
概要版pdf
本文1,2pdf本文3pdf

意外と、と言ったら失礼かもしれないが、まともに試行・検証を行なっているという印象である。

試行の趣旨については、以下のように書かれており、明確に訴追側の証拠固めの一環として位置づけられている。

取調べの録音・録画の試行は、取調べの状況を客観的に記録し、公判で供述の任意性、信用性等をめぐる争いが生じた場合に、その客観的な記録による的確な判断を可能とするためには、いかなる方策が有効であるかを検討するために、取調べの機能を損なわない範囲内で、警察における取調べについて録音・録画を試行するものである。

これは平成20年から23年まで実施された従来の試行と似ているが、拡大したものである。
従来の試行は、自白の任意性立証という目的の下で、対象事件が裁判員裁判対象事件の一部となっていて、録画場面も調書の読み聞かせと指印を求める場面に限られていたが、有効性を検証するにはさらに拡充が必要という報告書が出されていた。
これに基づき、平成24年4月から実施事件数を拡大した。目的は供述の任意性、信用性等の立証となっり、従って自白事件だけではなく否認事件も含まれる様になった。今回の検証は、拡充後の事件を対象としている。

対象事件は、裁判員裁判対象事件のうち、公判において供述の任意性、信用性等について争いが生じるおそれがあるなど、取調べ状況等を客観的に記録することが、裁判所等の的確な判断に有効であると認められるものとなっている。
これには被疑者が自白をしている場合に限らず、否認等をしている場合も含むが、被疑者が拒否したり、組織犯罪、その他障害がある場合を除いている。統計によれば、試行事件の65%が全部自白事件で、否認事件も約35%、3.6%は全部否認事件となっている。

録音録画の対象となる場面も、全過程ではないものの、早期の取調べ段階、読み聞かせ段階、調書作成後の質問場面を対象としており、一歩前進している。しかしまだ、警察官が適切と認める場面に限るという根本的な欠陥が残されているし、実施場面の統計でも読み聞かせ場面が37.6%と最大である。

その結果、平成24年から9月までの裁判員裁判対象事件1849件中、試行は1241件で行われ、実施率は67.1%となっている。
また、録音録画回数は1689件であり、一つの事件で複数回の録音録画がなされている場合がかなりある。
実施時間は、平均21分。最長209分録音録画したというものもあるが、30分未満というものが約8割を占める。

被疑者の拒否により実施しなかった件数は92件で、理由は弁護人の指導が最も多い。従来の試行では録音録画されるのがイヤというものが多かったのに、試行拡大後は弁護人の指導が増加したそうだ。

録音録画に対する反対論として、弁護人の負担が過重となるという歪んだ理由を挙げることがある。録音録画されれば、弁護人はそのデータを見なければ弁護過誤となり、全件での視聴をせざるを得ないというものである。しかし実際には、試行とは言え録音録画がされた事件のうち、証拠開示された事例は平成20年以降481件にとどまり、平成24年4月以降は97件にとどまっている。

注目されるのは取調官の意見である。
平成24年以降の試行について、録音録画による立証の有効性認識が高まった結果、全過程の録音録画を許容する意見が増大している。全事件について全過程の録音録画を是とする意見は3.8%にとどまっているが、事件によっては全過程の録音録画を是とする意見が34%にものぼっている。
もちろんこれは取調官の立証の便宜という観点からの意見であり、捜査過程の適正確保という目的ではなく、供述の信用性立証のためには部分的録音録画では十分でないとの認識だ。
しかしそれも正当な認識といえよう。結局部分的な録音録画では、録音録画していない場面での任意性信用性を疑わせる事情がないことが立証できないという問題意識だからである。

もともと、取調べ過程の録音録画が必要だとされた趣旨は、取調べ過程の可視化により、不当な自白誘導を事後的にでも検証できるようにして、引いてはその予防につなげるというものである。自白が任意になされ信用できることを立証するために行う録音録画の試行とは、目的が正反対でもある。
しかし、興味深いことに、供述が信用できるか出来ないかを取調べ過程の録音録画データに基づいて立証しようとすれば、不当な自白誘導をしていないことの証明をすることになり、結局は不当な自白誘導が抑止される結果につながっている。
その意味で、全過程の録音録画をしないと自白が正当に得られたことの立証として十分でないという認識が広まっているのは、取調べ過程の可視化を目的とする議論にとっても有用であろう。

なお、知的障害を有する被疑者に関する試行の結果も興味深い。

|

« jugement:共有物分割訴訟 | トップページ | jugement:主観的予備的併合を適法と認めた事例 »

法律・裁判」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: police:取調べ過程の録音録画:

« jugement:共有物分割訴訟 | トップページ | jugement:主観的予備的併合を適法と認めた事例 »