law:徒然に思う労働法
労働法は専門分野でないので、法学部出身の普通の人のレベルなのだが、最近の日本の政治的な言説には違和感を禁じ得ない。労働法的な常識はどこにいってしまったのか?
以下ツイートを元にやや加筆。
日本では労働組合の評判がひどく悪いが、労働者の権利を守り、突然の首切りとか退職強要、自主退職狙いのイジメなどには団結権、団体交渉権、そして最悪の場合は争議権が対抗手段となる。
非正規雇用のみなさんも組合を作ることは可能だし、独立ユニオンもある。生存すら危うい労働条件には抵抗するのが当然の権利だし、それは悪いことでは全然ない。
労働組合も、使用者に協調的で逆に被用者を抑圧する道具と成り果てているものもある。儀式的な春闘はやっても、非正規雇用の差別待遇は見て見ぬふりというところは、その類だ。そういう御用組合は頼りにならない。
日本法は御用組合を良しとせず、使用者が労働組合に便宜を与えることを禁止している。組合差別の手段となりうるからだ。橋下氏が大阪で組合事務所を攻撃したのは、この点に根ざしている。日本の組合が使用者に従属しているがゆえに、いざというときに脆いということを象徴している。
他方とにかく戦闘的過ぎるのも困り者。経営が好転しないと待遇も好転しないのは事実。この点で国鉄時代の労働組合は、やはり同時代的に見ていても組合の弊害を露呈していたと言わざるをえない。
しかしながら、本来は、経営判断で雇用や労働条件も左右する使用者に対して、不当な労働条件の押し付けや差別、恣意的解雇などをさせないように抵抗するのが組合の役割で、それは正当な存在だ。
このように、従業員の待遇改善と不当な解雇阻止に効果的に動く組合は、従って経営者には好まれず、経営者団体=財界に疎まれ、財界御用達の自民党にも嫌われる。貧困にあえぐ国民が正面から待遇改善を求める手段として労働組合を頼り出すと、雇用を景気の調整弁に使えず、経営者的にはイヤだ。
その場合に経営側と結託した権力者が考えることはいつも同じ。組合は悪いものという刷り込みを行うとともに、貧困層の不満をそらすためにナショナリズムを煽り、外敵の存在を誇大に宣伝する。人為的に緊張を創りだすのも効果的。解雇規制や最低賃金を撤廃したい勢力の政治的傾向は大抵こういうもの。
昨今の政治的言論も、まさしくこうしたコースをたどっており、低賃金と不安定雇用に困っている人たちが日本社会の将来を憂う気持ちに、「美しい日本」とか「日本を取り戻そう」とかいって、外敵の脅威を作り出し、さらには意図的に緊張を高めることでナショナリズムを煽り、不満を上手に逸らしている。中国、北朝鮮、韓国、そしてロシアとの諸問題は、右翼のエネルギーになるだけでなく、不況にあえぐ民衆が正面から労働環境改善を求めるのを防ぐのに効果的に利用されている。
日本の場合はさらに、日教組とか公務員労組とか、それぞれに問題のある存在に批判を集中することで、組合差別を既得権益攻撃にカモフラージュしているのが巧妙なところだ。
組合=サヨク=中ロの味方という刷り込みの他に、子どもたちのイジメ問題も日教組のせいで、従って組合一般が悪いとか、国家財政の破綻寸前の不安を公務員たたきに転化し、特に公務員労組が悪い、仕事をしない、既得権益の高待遇だ、天下りもある、という批判を繰り返し、組合=悪のイメージを作り上げる。
ひいては、被用者が団結して使用者に対抗しようという発想そのものが悪いことのような刷り込みが長年の成果。
結果、非正規も正規も不当な労働条件に抗議し交渉で改善を求める手段を実質的に失い、職場ぐるみのイジメになすすべがない。代わって登場するのがパワハラ概念だが、労働三権保障以前のアナクロではないか。これをポストモダンというのは、少なくとも日本社会の現状では、上記のような経営者側の思惑にピッタリ来る言説で、中身の評価はともかく、ゴマカシに活用されるものだ。
日本は組合の力が強いからと寝言をいう人が時々いるが、諸外国の方がより強い。
日本の憲法・労働法は確かに労働組合を守っている。
かくして労働者の待遇を切り詰めたい人々は、日本国憲法も嫌いで、占領下の押し付けだから正統性がないなどという。規制緩和=グローバル・スタンダードだというネオリベも同様。
しかし、グローバル・スタンダードの源泉のはずのアメリカは、労働組合が強く、法的にも守られている。日本的常識からすると非常識のように思われる強力なユニオンショップ制もアメリカ由来だ。というかそれを輸入したのが日本労働法。規制緩和は団結権強化を伴うはずなのに、労組は御用組合以外否定しておいて規制緩和だけ進めるのは、新自由主義ですらない。19世紀前半の水準だ。
なお、派遣労働もあり、グループ企業もあり、雇用の法的構成が流動化していることは事実であり、企業別組合が弱体化する根っこはそんなところにもあるから、昭和世代の労働法理論がそのまま通用する時代では無さそうだ。平成の労働法学者に期待するところは大である。
| 固定リンク
「生活雑感」カテゴリの記事
- 2024謹賀新年 A happy new year! Bonne année!(2024.01.01)
- Ohtaniさんビデオby MLB(2023.09.19)
- 東日本大震災被害者の13回忌(2023.03.11)
- 2023年謹賀新年(2023.01.01)
- 謹賀新年2022(2022.01.01)
コメント
町村センセがそういう思想の持ち主だとは知らなんだ。
労働者を守るものは規制でも組合でもなく、競争的・流動的な労働市場だと思いますがね。
ハイエク
「公的保護を得た者が、それを得られない者に対して行う搾取は、これまでの階級間搾取の中で最も残酷なものだ」
フリードマン
「労働組合は不要だ。なぜならば、ある労働組合員の利益を得るためには、他の労働者の犠牲が必要だからである」
『資本主義と自由』
ある職種なり産業なりで労働組合が賃上げに成功すると、そこでの雇用は必ず減ることになる。
これは、値上げをすれば売れ行きが減るのと同じ理屈だ。その結果、職探しをする人が増え、
他の職種や産業では賃金水準が押し下げされる。しかも組合は、もともと賃金の高い層で力が強いのがふつうなので、
結局は低賃金労働者を犠牲にして高賃金労働者の賃金が上がる結果を招く。
要するに労働組合は雇用を歪めてあらゆる労働者を巻き添えにし、ひいては大勢の人々の利益を損なっただけでなく、
弱い立場の労働者の雇用機会を減らし、労働階級の所得を一段と不平等にしてきたのである。
『選択の自由』
大半の労働者にとってもっとも頼りになる有効な保護者は、多数の雇用者が存在しているという状況そのものだ。
(中略)雇用者が労働者を守ってくれる場合があるとすれば、それはその労働者を雇いたいという意欲をもっている雇用者が複数いる場合だ。
(中略)もし、ある雇用者が十分な賃金を払わないならば、他の雇用者が喜んで払うといいだすだろう。
つまりその労働者が提供するサービスを手に入れようと、数多くの雇用者たちが競争することが、労働者にとってのほんとうの保護になる。
投稿: 侵略者 | 2012/12/07 01:43
侵略者さんのコメントに反応する必要もないのだろうが・・
こういう宣伝で、現在労働者は貶められている。
そうでなければ、あのバブルを越えた好景気と言われた2002-2007の5年間に、労働者の総賃金が5兆円減り、役員報酬が2倍、株主配当が5倍で、企業内留保が300兆円、個人資産が1400兆円になったということは、どう説明すればいいのか??
20世紀の日本型社会は、1億層中流と言われ、誰もが未来を描けた。それをぶち壊したのが新自由主義と小泉改革だったのではないのか?
そこで唯一救いになったのがunionの存在だったのは、マクドナルドの名ばかり店長訴訟で明らかだ。いつの世も、雇用者は被雇用者をできる限り安く使って搾取しようとするものだと言うことが明らかになったではないか。そして、それに対抗できる手段も、個人加盟unionだけだった。これは事実ではないのか?
このblogのエントリーを読んで、私は逆にすっきりしました。ありがとうございます。新自由主義でさえなく、19世初頭レベルというのも同感です。そう考えて仕事してました
投稿: yorejijie | 2012/12/08 14:39
>yorejijie
答えは簡単です。
デフレだったからです。デフレ期に積極的に投資を行う経営者がいるとしたら、本当に愚かというべきでしょう。
また、株主配当や役員報酬が増えているのは、株の持合が崩れ、経営責任が問われるようになったからです。不況真っ只中の2000年あたりと比較すれば、上がるのは当然ですしね。
普通の企業に勤めていれば、このくらいのことは理解できるはずです。階級闘争史観は捨てましょう。
投稿: 侵略者 | 2012/12/08 18:54
階級闘争史観なのでしょうか?
単純に、資本主義がその牙をむき出しにしている。それが新自由主義で、その一部だけつまんでいるのは、新自由主義ですらない。町村先生の言うとおりだなと、納得したのですが、町村先生の考えは別なところにあるのかもしれませんのであしからず。
それにデフレなのにデフレに誘う金融政策をしているのも問題だが、そう政府に圧力をかけていたのもアメリカや日本の新自由主義者でしょう。
>つまりその労働者が提供するサービスを手に入れようと、数多くの雇用者たちが競争することが、労働者にとってのほんとうの保護になる。
こういう雇用者が、本当にいるのなら、企業内留保を増やしたり、株主優先と言って、配当を5倍にしたりするのでしょうか? だいたい筆頭株主は経営者ではないのですか??
そうではない雇用者が現れたら、あなたの説明を信じましょう。
今、日本で景気が上向かないのは国民の大多数を占める労働者の賃金が抑え込まれているからです。若者の車離れも、車に興味がないのではない。車なんか買えない環境だから興味を持てないのです。そこで増税、最低賃金制撤廃。あなたが労働者で、それを望むなら、それも自由ですが、それでは大多数の労働者が苦しむことになるだけだと思いますが。
だいたい政府の税収が減っているというのに、上げるのは所得税と消費税で、企業の1/3しか払ってもいない法人税を、下げるというのが政策もおかしいが、それを求める経営者が、あなたの言うような、素晴らしい人々ではないと言うことでしょう。
投稿: yorejijie | 2012/12/09 11:14
>yorejijie
あまりにも支離滅裂で、まともに答えるのも疲れますが。
企業の決算報告書でも見れば分かるでしょう。
特に大手企業は経営者といってもそのほとんどが出世したサラリーマンに過ぎない。
日本企業の労働分配率(不況に上がり、好況には下がる性質のものですが)も、好況期でも60%以上と決して低くはない。
だから、何が問題かといえば、労働者間の分配がおかしいのです。
それを歪めているのは何者か、察しはつくでしょう。
このくらいのことは普段から新聞等読んでいれば分かりそうなものですが。
「新自由主義」とレッテルを貼って何かを批判した気になっているのは完全な思考停止。
経済のお勉強が必要ですな。
投稿: 侵略者 | 2012/12/09 11:35
侵略者 殿
あなたは大変強い、もしくは経営者に好まれる労働者であるか、経営者と呼ぶにふさわしい思考の持ち主な方のようですね。
私を含む多くの、大多数の労働者はあなたのように強くありません。年間の自殺者の三万人越えが止まらず、その理由が経済的なものであることはお国の機関も認めている所です。この弱い労働者・国民を守る手段の一つが労働組合だと私は考えます。それが先生が言われていることの一つではないかと思います。
みんながあなたのように強ければ労働組合は必要ないかもしれませんが、そうではないのが現実ではないでしょうか?
投稿: kame | 2012/12/10 05:29