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2012/12/06

election:最高裁裁判官国民審査の参考資料

ちきりんさんも分からんけど☓というし、江川紹子さんも☓10プロジェクトなどというし、最高裁裁判官の国民審査は大事な機会だと言いつつ選択のための資料が不足しているということのようである。

そこで、ちょこちょこっと裁判例の中から、審査対象裁判官のおおまかな傾向を探って見ることにした。
(2012.12.8、いくつか追記しました)
2012.12.14、期日前投票で国民審査もしました。

最高裁判所裁判官の国民審査対象者は、以下の通りである。
山浦善樹(弁護士出身)
岡部喜代子(裁判官・研究者出身)
須藤正彦(弁護士出身)
横田尤孝(検察官出身)
大橋正春(弁護士出身)
千葉勝美(裁判官出身)
寺田逸郎(裁判官出身)
白木勇(裁判官出身)
大谷剛彦(裁判官出身)
小貫芳信(検察官出身)

最初に強引な色分けを示しておくと、比較的秩序維持を重視する傾向を有するのが大谷剛彦、横田尤孝の各裁判官だ。
 これに対して、比較的リベラルと位置づけられるのが岡部喜代子、須藤正彦、千葉勝美、寺田逸郎、大橋正春の各裁判官。
 山浦善樹、白木勇、小貫芳信の各裁判官は、賛否の別れる判決で意見を出していないので、不明である。

詳しくは次に分析する。

 最高裁の判決には個別意見が付けられるので、最高裁判決で賛否がわかれている事件を題材に、各裁判官がどのような傾向を有しているかを分析してみた。
 抽出したのは、最高裁の判例集から「反対意見」というキーワードで検索した判決・決定で、その中では反対意見のみならず補足意見等を述べている裁判官の情報も拾っている。従ってここに登場しないからといって全く意見を述べていないというわけではないが、それなりに活発に意見を述べる裁判官が並んでいるといえよう。

 まず、関心の高い選挙の一票の格差事件についてだが、平成24年10月17日の参議院一票の格差に関する選挙争訟について、積極的に違憲判断を出すべきという意見を述べたのは、須藤正彦、大橋正春、両裁判官である。ただし、須藤裁判官は、平成23年3月23日の衆議院一票の格差に関する選挙争訟では、違憲判決を取り消した多数意見に賛成の補足意見を述べている。

 次に、関心が高いと思われる憲法事件として、国歌斉唱の職務命令を合憲とする判決では、反対意見を述べた裁判官はいない。賛成側の補足意見を述べたのは大谷剛彦、千葉勝美、横田尤孝、須藤正彦、岡部喜代子の各裁判官である。ただし、そのそれぞれのニュアンスは異なるので、詳細は各々判決文を当たられたい。→arret:君が代不起立を理由とする減給処分は違法

 刑事事件では、平成23年7月25日の強姦逆転無罪事件について、千葉勝美、須藤正彦の各裁判官が賛成の補足意見を述べている。これは被害者の供述だけで強姦有罪を認めた原判決に、状況から見て疑わしいとして、「疑わしきは被告人の利益に」としたものである。
 千葉裁判官はまた、平成24年2月29日の放火事件で、訴因変更手続を経ない点が違法であるが破棄には値しないとした判決に対し、著しく正義に反するから破棄すべきだとする反対意見を述べた。
 平成24年7月9日の児童ポルノ事件で、URL掲載が公然陳列正犯に該当するという判決に反対意見を述べたのは、大橋正春裁判官である。これに寺田裁判官も同調している。
 他方、大谷裁判官は、平成23年12月19日のウィニー作者幇助無罪判決について、幇助にあたるとの反対意見を述べているのが注目される。
 大谷裁判官はまた、平成23年10月31日の北九州酒酔い運転死亡事故について、危険運転致死に当たるとした判決に賛成の補足意見を述べた。
 また今話題の尼崎の監禁殺人に類似する北九州の連続監禁殺人事件で、主犯格の男に従って犯行を重ねた女性を死刑とするかどうかでは、無期懲役とした多数意見に対し、横田裁判官が死刑相当との反対意見を述べた。

 追記:平成24年12月7日の判決で公務員の政治的行為の禁止規定を合憲的解釈すれば、課長補佐のような管理職でも構成要件に該当しないとして反対意見を付けたのが須藤裁判官だ。須藤裁判官のリベラルな姿勢がますます鮮明となっている。

 消費者事件では、平成23年7月12日の敷引特約を消費者契約法10条に違反しないとした判決について、岡部裁判官が反対意見を述べている。これに寺田裁判官は共感するが結論は多数意見賛成の補足意見を述べている。
 →arret:敷引特約が有効とされた事例
 また須藤裁判官は平成24年3月16日の生命保険契約失効特約が消費者契約法10条に反しないという判決に、反対意見を述べている。

 その他、岡部裁判官は平成24年3月13日ライブドア有価証券報告書虚偽記載の民事事件で、損害算定方法について反対意見を、平成23年6月6日の一級建築士免許取消事件でも、手続違反で処分を取り消した判決に反対意見を述べている。須藤裁判官は政務調査費関係文書を自己専用文書に当たるとして提出命令を認めなかった平成22年4月12日判決に、反対意見をつけている。

 かくして、冒頭に記したように、強引に色分けを図るならば、比較的秩序維持を重視する傾向を有するのが大谷剛彦、横田尤孝の各裁判官といえよう。
 これに対して、比較的リベラルと位置づけられるのが岡部喜代子、須藤正彦、千葉勝美、寺田逸郎、大橋正春の各裁判官というところであろうか。
 山浦善樹、白木勇、小貫芳信の各裁判官は、賛否の別れる判決で意見を出していないので、不明である。


 以下は、上記の資料を個別裁判官ごとにまとめたものである。参考にしてほしい。
 また、審査対象裁判官にアンケート=「1票の格差」などという記事や「忘れられた一票 最高裁判所裁判官の国民審査が世界一わかっちゃうサイト」も参考になる。

山浦善樹→裁判所サイトのプロフィール
 弁護士出身の66歳。出身地は長野。

岡部喜代子→裁判所サイトのプロフィール
 家族法研究者出身の63歳。ただし、昭和51年から平成5年までは裁判官。出身地は東京。
 平成24年3月13日のライブドアの有価証券報告書虚偽記載事件において、損害算定方法について反対意見を述べた。
 平成23年7月12日の敷引特約を消費者契約法10条に違反しないとした判決に反対意見を述べた。
 平成23年6月21日の国歌起立職務命令を合憲とする判決に賛成の補足意見を述べた。
 平成23年6月6日の一級建築士免許取消事件で、手続違反で取り消した判決に反対意見を述べた。

須藤正彦→裁判所サイトのプロフィール
 弁護士出身の69歳。出身地は栃木。
 平成24年10月17日の参院一票の格差訴訟では、違憲とすべきとの反対意見を述べた。
 平成24年3月16日の生命保険契約失効特約が消費者契約法10条に反しないという判決に、反対意見を述べた。
 平成23年7月25日の強姦事件で、逆転無罪判決に賛成する補足意見を述べた。
 平成23年5月30日の国歌斉唱起立の職務命令を合憲とする判決に賛成する補足意見を述べた。
 平成23年3月23日の衆院一票の格差訴訟で違憲判決を取り消した判決に賛成の補足意見を述べた。
 平成22年4月12日の文書提出命令で政務調査費関係文書を自己専用文書に当たるとした判決に反対意見を述べた。

横田尤孝→裁判所サイトのプロフィール
 検察官出身の68歳。出身地は千葉。
 平成24年2月9日の国歌斉唱義務不存在確認事件で、多数意見に賛成の補足意見を述べた。
 平成23年12月12日の北九州連続監禁殺人事件で副主犯格とされた女性被告を無期懲役とした多数意見に対し、死刑相当との反対意見を述べた。

大橋正春→裁判所サイトのプロフィール
 弁護士出身の65歳。出身地は東京。
 平成24年10月17日の参院一票の格差訴訟では、違憲の反対意見を述べた。
 平成24年7月9日の児童ポルノ事件で、URL掲載を公然陳列にするという判決に反対意見を述べた。

千葉勝美→裁判所サイトのプロフィール
 裁判官出身の66歳。出身地は北海道。
 平成24年10月17日の参院一票の格差訴訟では、違憲状態に賛成し、補足意見を述べた。
 平成24年2月29日の放火事件で、訴因変更手続を経ない点が違法であるのみならず、著しく正義に反するとする反対意見を述べた。
 平成23年7月25日の強姦事件で、逆転無罪判決に賛成する補足意見を述べた。
 平成23年5月30日の国歌斉唱起立の職務命令を合憲とする判決に賛成する補足意見を述べた。

寺田逸郎→裁判所サイトのプロフィール
 裁判官出身の64歳。出身地は京都。
 平成24年7月9日の児童ポルノ事件で、URL掲載を公然陳列にするという判決に反対意見を述べた大橋裁判官に同調した。
 平成23年7月12日の敷引特約を消費者契約法10条に違反しないとした判決に賛成の補足意見を述べた。

白木勇→裁判所サイトのプロフィール
 裁判官出身の67歳。出身地は愛知。

大谷剛彦→裁判所サイトのプロフィール
 裁判官出身の65歳。出身地は東京。
 平成23年12月19日のウィニー作者幇助事件について、幇助にあたるとの反対意見を述べた。
 平成23年10月31日の北九州酒酔い運転死亡事故について、危険運転致死に当たるとした判決に賛成の補足意見を述べた。
 平成23年6月21日の国歌起立職務命令を合憲とする判決に賛成の補足意見を述べた。

小貫芳信→裁判所サイトのプロフィール
 検察官出身の64歳。出身地は福島。

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コメント

はじめまして
こういう記事を待ってました

国民審査に関しては制度そのものが悪意に満ちているんので、いままで全部×しかつけたことがないです。

でも、こうやって解説していただけるとありがたいですし、選挙もインターネット全盛にもかかわらず選挙公報ですら入手が面倒なのに最高裁判官がどういう意見を言ったかなんて普通の人にはわかりません。

非常に参考になりました。ありがとうございます。

投稿: 通りすがりの選挙民 | 2012/12/07 19:29

親切な記事で参考になりますね。
岡部裁判官は学者枠ではありますが,元々は裁判官で,27年間裁判官を務めてから弁護士・学者になられたので,学者歴より裁判官歴がずっと長いんですよね。そういうこともわかるといいなと思いました。
私が家裁修習をした際に指導裁判官で大変お世話になりました。

投稿: しほ | 2012/12/09 15:49

国民審査についてはほんとうに判断材料が少なすぎると感じています。
須藤正彦裁判官なんかは、えん罪の疑いが強いといわれている、高知白バイ事件で有罪判決を下していますよね。

投稿: 山D | 2012/12/09 19:49

役に立つ記事ありがとうございます。

「形骸化してる国民審査」に関しては、
2009年にビデオニュースで「最高裁国民審査を審査する」を見てから
前回から×を数名書きました。
http://www.videonews.com/on-demand/431440/001205.php

形骸化してるのは事実ですが、江川氏の☓10プロジェクトに
参加してる人達のほとんどは選挙公報もネットも自分で
「時間をかけて読む」という面倒な行為の放棄の延長感は否めません。
プロセスとしてそれらをせずに楽をして×をつけてる感じです。

こちらの記事といい、色々と材料はありますからね。

忘れられた一票 2012 “歳末”高裁判所 裁判官 国民審査 判断資料
http://miso.txt-nifty.com/shinsa/

朝日新聞デジタル:司法、あなたの目で 最高裁裁判官10人に国民審査
http://www.asahi.com/politics/intro/TKY201212120758.html

投稿: AKY | 2012/12/13 23:20

高知白バイ事件の関係者がいましたか。情報ありがとうございます。前福島県知事のわいろ0円の有罪判決の関係者もいらっしゃいますね。

投稿: おふおふ | 2012/12/14 13:16

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