arret:将来給付の訴えの対象適格を欠くとされた事例
民訴教材向けである。
事案は、3名の共有に属する土地を共有者の1人Yが駐車場として賃貸し、駐車場代を得ていたが、他の共有者2人(Xら)が、自分たちの共有持分に応じた不当利得返還を求めたというものである。
原審は、原審口頭弁論終結前の不当利得返還請求のみならず、口頭弁論終結後の不当利得返還請求も認容した。ところが最高裁は、口頭弁論終結後の不当利得返還請求について、以下のように判示して、破棄自判し、訴えを却下したのである。
共有者の1人が共有物を第三者に賃貸して得る収益につき,その持分割合を超える部分の不当利得返還を求める他の共有者の請求のうち,事実審の口頭弁論終結の日の翌日以降の分は,その性質上,将来の給付の訴えを提起することのできる請求としての適格を有しないものである
この判決で引用されている先例は、最判昭和63年3月31日集民153号627頁で、ほぼ同様の事案で同様の判断を下している。
さらにこの昭和63年判決が先例として引いたのが、大阪空港騒音訴訟として知られる最判昭和56年12月16日民集35巻10号1369頁であり、これが一応のリーディングケースと位置づけられる。
将来給付の訴えは、まだ発生していない権利について債務名義を得るわけだが、将来権利が現実化しなかった場合には、被告=債務者としては、その債務名義による強制執行を阻止しなければならず、そのためには請求異議の訴えという訴訟を起こさなければならなくなる。
そこで、一般論として「その基礎となるべき事実関係及び法律関係が既に存在し,その継続が予測されるとともに,債権の発生・消滅及びその内容につき債務者に有利な将来における事情の変動があらかじめ明確に予測し得る事由に限られ,しかもこれについて請求異議の訴えによりその発 生を証明してのみ強制執行を阻止し得るという負担を債務者に課しても,当事者間の衡平を害することがなく,格別不当とはいえない場合に,例外的に可能となる」ということになっている。
昭和56年の最高裁判決は、空港の騒音による損害賠償請求という事例で、その後の空港騒音訴訟において繰り返し認められ、定着した判例となっている。
昭和63年の最高裁判決は、これを共有不動産の使用利益をめぐっての不当利得返還請求訴訟に応用し、本判決もこれを踏襲したものだ。
本件でどのような「不確定要素」があるかということについては、昭和63年の最高裁判決が詳しく言及しているし、また本判決の射程については須藤裁判官と千葉裁判官の補足意見で不当に広くならないようにと釘が刺してある。
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