minso:請求の放棄・認諾
今朝の新聞サイトに、請求の放棄という事例が報じられていた。
読売online:消せるペン特許訴訟、パイロット側が請求放棄
書いた文字を消せるペンを巡り、文具メーカー「パイロットコーポレーション」が、同業の「三菱鉛筆」による特許権侵害を主張し、製造・販売の差し止めなどを求めた訴訟は7日、東京地裁の口頭弁論でパイロット側が自らの訴えに理由がないことを認める「請求放棄」を申し立てて終結した。
パイロット側は昨年1月に提訴。三菱鉛筆側は「特許権侵害はない」と争っており、7日に結審予定だった。同社によると、パイロット側は請求放棄の理由は説明しなかったという。(2012年11月7日22時05分 読売新聞)
この三菱コンツェルンとは無関係なことで有名な三菱鉛筆のサイトがなぜかつながらないのだが、それはともかく、著名企業同士の訴訟沙汰であり、和解も成立することなく請求放棄で終結したというのは、その経緯が極めて興味深いものである。
ちなみに、請求の放棄とは、原告が自ら裁判で求めた請求権を不存在と認めて確定させる訴訟行為であり、これに対して被告側が原告の請求を認めるとして確定させる訴訟行為を請求の認諾という。
いずれも、口頭弁論調書に記載されることで効力を生じ、確定判決と同一の効力があると規定されている。
→民訴法266条1項「請求の放棄又は認諾は、口頭弁論等の期日においてする。」、同267条「和解又は請求の放棄若しくは認諾を調書に記載したときは、その記載は、確定判決と同一の効力を有する。」
原告の請求の放棄は、訴えの取下げと似ているので混同されやすいが、訴えの取下げは「確定判決と同一の効力」はなく、初めから訴訟が係属しなかったことになるだけである。ただし、被告が実質的に応訴した後は被告の同意が必要で、また終局判決後に取り下げたら再訴が禁止される。請求の放棄は被告の同意が不要である。
請求の放棄には確定判決と同一の効力があると規定されているが、その意味するところは争いがある。少なくとも訴訟が終了するという効果があることは争いがないが、それ以上に、請求棄却判決確定と同様に請求権不存在という点に既判力があるかどうかは争われている。
それはともかく、請求の放棄というのは裁判ではないので、判例として掲載されることもなく、公の記録で確認できるものは珍しい。上記の報道はその意味で貴重だ。
これに対して請求の認諾の方は、最近の適格消費者団体による差止訴訟で事業者側が認諾をするケースが見られ、この訴訟の結果はすべて消費者庁がウェブ上に公表し(例えばホクネットVs.バイアップの認諾例pdf)、かつ多くの消費者団体は自らのサイトで認諾を公表している(同じくホクネットVs.バイアップの情報pdf)ので、確認できる。
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