Law:受刑者に国は安全配慮義務違反の債務不履行責任を負うか?
札幌の研究会で、訟務検事さんが表記の問題を報告した。
結論は国賠、すなわち不法行為責任を負うとしても債務不履行責任は負わないというものであった。
立場上その結論しかあり得ないとも思えるが、訟務の中でも見解は分かれているということだった。
報告では債務不履行責任を公務員の事故に認めた昭和50年の最高裁判決について判例の射程を厳密に捉え、国と受刑者の間には契約も対価関係も自由意思による関係形成もないので、債務不履行責任を観念できないという。
その議論の実益は時効期間であり、民事的には3年か10年かの違いがある。
現実に受刑者が革手錠を使用され死亡したケースでは、国賠の時効の完成後の事案で、債務不履行責任を認めた判決がある。
報告者はなかなか固い論陣を張り、特に自由意思による契約と強制による収容関係とは違うことを強調していた。
しかし、私が思うに、自由意思による関係と強制による収容関係とを比較したなら、保護に値するのは自由意思で関係に入った者よりも強制された者の方ではなかろうか。
価値判断のベクトルが逆ではないかと、そんな感想をもった。
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