Book:ロシア人の見た幕末日本
幕末の日本を襲った西洋列強の開国圧力と言えば、アメリカ、イギリス、フランスが存在感を示しているが、ロシアも、千島・樺太、北海道方面での侵略の可能性があったというイメージが定着している。
本書は、そんな脅威としてのロシアとは別の面を浮き彫りにしている。
本書は箱館駐在の初代ロシア領事ゴシケーヴィチが本国と交換した報告・訓令の文書を、サンクトペテルブルクなどの公文書館で丹念に読み込んだ著者が、その日本滞在時のロシアの動向を活き活きと描き出したものである。
ロシアといえば、当初、樺太を混合居住とし、千島は帰属がはっきりしていなかったところ、千島樺太交換条約により千島は日本、樺太=サハリンはロシアとしたという事ぐらいが教科書で習う。
その後、箱館に領事館をおいて、函館にロシア正教会を広め、一定のロシア文化の定着が見られたというのも、それなりに知っている。ちなみに神田のニコライ堂はこのロシア領事に随行した聖職者が基礎を築いている。
その後、対馬を占領しようとし、英国とのにらみ合いで撤退したということも、歴史的には知られた事実だ。
本書では、幕末の激動期に、ロシアが虎視眈々と領土を狙っていたばかりではなく、むしろクリミア戦争で敗れた後だけに、武力による強引な外交よりも友好外交を目指していたという意外な一面が、このゴシケーヴィチの文書を通じて明らかにされている。
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