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2012/08/08

consumer:集団的消費者被害回復に係る訴訟制度案のパブコメ・続き

骨子に対して今回の制度案で大きく取り上げられているのが、消費者団体による第一段階、つまり共通義務確認の訴えを提起する段階での仮差押え可能性である。

第一段階の訴訟を提起する段階では、未だ個々の消費者の請求権を訴訟物とするわけではないし、共通義務確認の訴えでは「個々の消費者の事情によりその金銭の支払請求に理由がない場合」を留保して金銭請求義務の存在を確認するというのであるから、被保全権利が最終的にあるかどうかは不確定の段階である。
にも関わらず、仮差押えを認めるというのである。
その場合の被保全権利は、「対象債権及び対象消費者の範囲並びに対象債権の総額を明らかにする」とされている。

具体的に考えてみよう。
事業者Aが、電話勧誘によりタブレット型パソコンを1000人の消費者に販売し、50,000,000円の売り上げを挙げた。ところがAは、電話勧誘販売における必要な書面(特商法18条・19条)を交付していなかった。そして、購入者のうち特に高齢者が、その利用を開始することすら出来ず、特定適格消費者団体Bに相談を持ちかけた。
そこで特定適格消費者団体Bが、事業者Aに対して、消費者のクーリングオフによる代金返還請求義務確認の訴えを提起しようと考えたが、事業者Aは小規模事業者であり、訴訟中に財産が散逸してしまうおそれもあった。

このような場合に事業者Aの現時点で確認できる財産を仮差押えできるというのが制度案の立場だが、さて、問題は「対象債権及び対象消費者の範囲並びに対象債権の総額」である。
この場合に、クーリングオフの意思表示をした者が対象消費者となって、その者の返還請求権が対象債権となるのか、それともクーリングオフの意思表示をできる者が対象消費者となって、その者の将来あるべき返還請求権が対象債権となるのか?
後者だとすれば、対象債権の総額は5000万円と明確だが、前者だとすると、その時点でクーリングオフをした者というのは明らかでなく、対象債権の総額も不明であろう。
なお、後者だとしても、5000万円というのは観念的には明確だというにとどまり、実際には特定適格消費者団体Bが事業者Aの売上額を知りうる立場にはない。対象消費者の範囲も、概括的にはタブレット型パソコンの購入者という限度で特定できるにとどまり、実際にはその数などは不明である。
これらの情報は、第二段階で対象消費者に通知をする段階で、事業者に「対象消費者の氏名及び住所等が記載された文書」の開示義務を課しており、それによって初めて明らかになりうるものである。

結局、多くの場合は対象消費者の範囲を概括的に、あるいは属性的に明らかにすることができるにとどまり、具体的な人数や対象債権の総額を特定適格消費者団体の方から明らかにすることは困難で、疎明も出来ない場合がほとんどではなかろうか。

この点はパブリックコメントとして指摘すべき点だと思うが、仮差押えをするにしても、第一段階の時点で対象債権の総額を明らかにさせることは適当ではない。論理的には、第一段階が抽象的な「共通義務」の確認訴訟なのであるから、その段階での仮差押えの被保全権利も「共通義務」に対応する抽象的かつ潜在的な対象債権ということになる。
そして、金額については、確かに現在の民事保全法上の仮差押えを利用する限り、その金額を明らかにしなければならないのだが、現存する請求権ではないところから、特に疎明には限界がある。例えば対象債権の性質によっては、全国または特定地方の消費者センターへの相談件数や相手方事業者の規模、公表されている取引額ないし数、さらには同業他社の取引規模などを用いて、推計した金額をもって、対象債権の総額と認めることができる旨の特則を設ける必要がある。
その額が不当に過大であるというのであれば、異議審で相手方事業者に、第二段階で要求される情報開示を先取りして要求し、その結果に基づいて調節するということが考えられる。

なお、現行民事保全法の手続に乗せるという以上は、担保や事情変更の取消、そして違法な民事保全に対する一応の過失法理などが適用になるものと思われる。しかし担保についてはいくら経理的基礎が要求されているからといって、あまりに高額となれば特定適格消費者団体に負担させるのは困難である。また、過失法理に関しても、多数消費者の利益を守るために行使する訴権であるので、一般の民事保全と同等の過失基準を要求するのは適当ではない。
現行消費者契約法47条が間接強制額を定めるに際して「執行裁判所は、債務不履行により不特定かつ多数の消費者が受けるべき不利益を特に考慮」すべしと規定するように、担保額の決定には「裁判所は、事業者の財産散逸により不特定かつ多数の消費者が受けるべき不利益を特に考慮」して不当に高額にならないようにしなければならないといった特則が必要だ。
またプロバイダ責任制限法4条4項のように、違法仮差押えにおける責任を「故意又は重大な過失がある場合でなければ、賠償の責めに任じない」と規定することも必要だ。

なお、保全の必要性はいずれにしても必要だし、仮差押え解放金の制度もあるので、財産保全に問題がない大企業には影響がない話である。

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