Book:検事失格
著者は元検事の弁護士さんで、検察官時代の苦悩を赤裸々に語っている。
大学の授業で学んだダイバージョンを行う役割に魅せられて検察官を早くから志望した著者は、無事任官した後、次第に検察官としての心構えを叩きこまれて一人前になっていった。
一人前というのはスキルのみならず、むしろ被疑者を自白させて立件すること、検察のメンツを守ること等の組織の論理に染まることだった。
そのため、二度までも心を病むことにもなったが、職を辞するまでに至った佐賀農協不正融資事件は、暴走する次席検事のデタラメぶりを止めることも出来ず、主任検事を押し付けられても断れず、被疑者を脅迫して自白に追い込むことまでしてしまったというわけである。
その後、心を病んで仕事を休み、リハビリ的な地位についた小田原支部では、抜け殻と自嘲しつつもおかしいことはおかしいと言える、いい意味で開き直った職務ぶりとして描かれている。
しかし、佐賀農協不正融資事件の取り調べで脅迫したことを法廷で証言したため、その行為の責任を取るために自ら辞職してしまった。
後からなんだかんだと批判するのは簡単だが、それでもやはり、検察庁の組織論理にどっぷり浸かることから抜けだした著者が、自らの暴言の責任とはいえ、検察官を辞職してしまっては、元も子もない。
結局、不当違法な取り調べをしたとしてもそのことを法廷で証言すべきではないと考える連中や、無茶な事件でも着手したらとにかく割り、立てるべしという無駄遣い公共事業のような方針の連中ばかりが残ることになるではないか。
自らのしたことを赤裸々に語る勇気には敬服しつつも、結果的には彼の指弾する検察庁の体質を変えられないという結果になってしまうことに、残念でならない。外から市民運動的に声を上げるよりも、当の検事たちが変えていく方がよほど容易だし、本筋のはずなのだ。
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