Book:プロバイダ責任制限法 実務と理論
堀部政男先生の監修になる本書は、プロバイダ責任制限法施行10年を振り返っての現状分析と将来展望を行うものだ。
プロバイダ責任制限法については、評価が二分されているところだ。
少なくともプロバイダ側としては、免責される部分が明確になるというメリットがあるし、開示請求にも自らの責任において処理する必要はなく、裁判所に下駄を預けることでセーフという構造になっている。しかし免責という点では、なお、より一層の明確さや安定さを求める声も強い。
他方、発信者情報開示を求める被害者側としては、迅速性や容易性に文句があることだろう。ハードルが高すぎるし、時間もかかりすぎるというわけである。
この両者の立場からすれば、より簡易迅速な開示を可能にして、プロバイダの責任が追及されなければならない場面を減少させることが将来の展望ということになりやすい。
しかし、隠れた当事者たる発信者が、その匿名性をあまりに安易に剥ぎ取られれば、不当な圧力や攻撃に去られるという可能性も依然として否定出来ない。
ただし、匿名の発信者が全く無答責でよいということにはならない。弱い個人とはいえ、発言には責任が伴う。言論・表現は自由だが、批判を受けることは免れないし、他人の権利を侵害すれば、その責任からも免れない。その責任があるかどうかを決める裁判の場に出てくることは、最低限覚悟しなければならない。
そこで発信者情報開示の当否として、裁判の場において言論・表現が逸脱したものなのかどうかを決める手続が必要となる。その、いわば前提条件としての手続でも、匿名の発信者が匿名のまま、自らの正当性を主張立証する場が保障されるべきだし、その場を自ら活用しなければ、匿名を剥ぎ取られてもやむをえない。
ということで匿名の発信者の手続保障こそが重要だというのが私の見解だ。
これに対する山本和彦先生の「提訴を容易にするための手続的方法」はなかなか渋いものである。
興味をお持ちの方は、是非、原本に当たられたい。
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