デートDVないしストーカー、声を上げるのをためらう気持ち
札幌で46歳の男が、元交際相手の女性に怪我をさせたとして傷害罪で逮捕され、4週間あまり監禁していたとの容疑でも取り調べを受けているという。
道警によると、女性は昨秋から容疑者と交際していたが、12月末に暴行を受け110番。今年4月には公的機関に緊急避難し、5月に転居した。数日後に容疑者が付近を歩いているのを見て再び110番した。捜査員はいずれも被害届を出すよう勧めたが、女性は断り、道警は容疑者に対し付きまといをしないよう口頭での警告にとどめていたという。
その後、暴力を受けて連れ去られ、監禁されたが6月14日に市内の飲食店に駆け込んで110番して助かったというのである。
この事例のように、暴力被害を受けている女性が、そのことを警察に相談したり、シェルターに避難するまでに至っているのに、なお被害届は出すのをためらったり、ましてや裁判所の保護命令を申し立てるのを避けたり、ということは非常によくあるようだ。
第三者的には、なぜ被害届等をためらうのか理解に苦しむ場合もあるが、被害者の状況を考えてみれば、それなりに理由がある。
基本的に、被害申告をして助けを求めるには、問題を表沙汰にしなければならない。自分の被害を第三者に説明しなければならないし、その相手は男性かもしれない。例え女性警官が担当してくれたとしても、特に男女関係にまつわる被害は性的な問題もあるので、積極的に表に出したくない事柄なのである。ましてや書類に残すことには抵抗を感じる。
この報道されたケースのような場合は、逃げ出すことで追及を逃れることができると楽観視したり、そもそもそんなに追っては来ないだろうと軽く見る気持ちもあったかもしれない。
DV防止法の適用がある事案では、同居して共通の財産があったり、子供がいたりして、簡単には断ち切れない関係が生じている。子どもにとっては加害者も親だし、加害者の親族もいる。その加害者を警察に突き出して犯罪者にする・前科者にするというのは、ためらう場合も多い。
それに場合によっては、まだやり直せるかも、という気持ちがある場合もあるだろう。
加えて、警察に被害届を出したら安全になるのか、守ってくれるのかという点に確信が持てないという人も多いのではないか?
この報道されたケースでは、被害者が望まない以上、口頭での警告に届けるということもしかたがないのかもしれないが、じゃあ被害届を出したら、相手はすぐ逮捕されたのかは疑問だ。
そして場合によっては署内旅行があるから1週間は放置ということもあるらしい。
じゃあどうすればよいか? こうしたケースは今後も生じうるし、それは仕方のないことだということで諦めるか? 今回のケースはたまたま被害者が逃げ出せたから、生きて助けを求めることができた。しかし不幸にして殺されてしまうという事態に至ることだった考えられる。
何とかして、そのような不幸な事態に至ることを防げないのか?
一つには、被害者が声を上げるのをためらう気持ちの原因に警察不信があるのだとすれば、どうせ頼んだったダメだろと思う気持ちがあるのであれば、それを払拭するように、被害者保護のための活動を今以上に引き受けるべきであろう。
加害者に対する口頭での警告もよいが、被害者の身辺警護をしたり、何よりも被害者を守っているということを加害者にも見えるようにすることだ。人的資源に限りがあるから出来ないこともあろうが、GPSを活用した通信機器を貸与して、しかもそのことを加害者にも伝えておくなどといったことが考えられる。
今一つは、弁護士等に、被害者保護の役割を期待したい。
多重債務者に厳しい取立てがあるという場合は、受任通知を送ることにより取立て行為を事実上規制することができる。貸金業者という行政規制の下にある事業者だからこその効果ではあるが、行政規制下にはないヤミ金から債務者を守る活動も、弁護士が行なっているところである。
ストーカーに対する被害者保護も、先進的な取り組みをしている弁護士たちはかなり多くの存在している。その活動は、法的な手続にとどまるものではない。弁護士自ら、あるいは支援団体の方々と協力して、被害者の身辺保護にも相当程度の役割が果たしうる。
問題は、それが仕事となるだけの報酬に結びつくかということである。正当な報酬が得られるものでなければ、そういう存在が定着することはない。DV被害者・ストーカー被害者の支援のために、基金を作って被害者支援の活動にお金を出す、そんな公的な仕組みが必要である。
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コメント
暴力・監禁は明かな違法行為。所詮「少女趣味な感傷論」から出るトラブルだから、告訴をためらったのだろう。
そのような女性に高等教育を受けさせる必要性を痛感する。
投稿: 青木きわむ | 2012/06/23 16:11