dispute:国際紛争と単独行動のメリット
昨日は、大学でアメリカから帰国した若い政治学者の発表を聞いた。
その大要は、国家間の紛争(戦争も、戦争に至らない危機も含む)において、同盟国の支援を仰ぐことなく単独行動をする国は、まさにその単独行動に出るということで紛争に勝利することができるというものだ。そのことを仮設として、1946年から2001年までのデータを分析し、実証されたという。
その政治学者の名前は小浜祥子准教授であり、アメリカンな雰囲気をこれでもかと前面に出す報告であった。
内容的にも、突っ込みどころは色々とあって、研究会でも指摘されていたところだが、それはともかくとして、従来は紛争に対して同盟国と共同対処することが最も有効と考えるのが常識であったところ、単独行動により対処することでかえって紛争に勝利することができるという可能性を示唆する点が新しい。
彼女の研究手法は、あくまで計量的に実証することだが、いくつかの前提がある。
まず、紛争において戦争に突入することは、高コストであるがゆえに、勝利したとはいえない。たとえ戦争に勝ってゲインを得たとしても、戦争を回避して同じゲインを得たほうが、コスト的には比べ物にならないほど有利だからである。
次に、紛争が抜き差しならないものとなって戦争に至るのは、コミュニケーション不全が原因であり、かつ紛争当事国同士のコミュニケーションは互いに有利な地位を占めるための戦略的コミュニケーションだから、ブラフを当然含み、通常の交渉過程ではコミュニケーションが上手くいかない。従って、何らかのシグナリングにより、本音を相手に伝える事が必要となる。
そのシグナリングとして、彼女によれば、防御側の単独行動に出ることが本気度を示し、攻撃を仕掛けてきた側を引かせる効果をもたらすと、単純に結論をまとめると、そういうことである。
計量分析に当たっては、例えば紛争に巻き込まれるということ自体の一定傾向をどう排除するかなど、複雑な要素があり、一時間の報告では理解も覚束ないところが多々あったが、大要は分かりやすい。
そして、これはアメリカでも一時期盛んだった民事訴訟の経済分析にも通じるものがある。
コストのかかる戦争を陪審公判と位置づけるならば、そのコストを避けて解決に至る和解が交渉による解決であり、その場での勝利は、結局ディスコミュニケーションを乗り越えて、いかに武器がたくさんあって有利な結果が得られるかを示すこと、つまりディスカバリーが鍵となる。
ディスカバリーのあるアメリカでは、もちろん提訴への敷居が低いということもあるが、90%以上の和解率を誇る。
対して日本の場合も、25%から30%の和解率で、多いと言えようが、日本にはディスカバリーがない。それでも和解率が高くなるのは、訴訟の結果をある程度見通せるという、法的安定性が鍵となっているのであろう。結果が見通し易い交通事故の場合は、交渉によっても、交通事故紛争処理センターによっても、高い解決率が見込まれる。
こうしたことを考えながら、国際紛争を題材とする報告を聞いていたので、結構、民訴研究者にも楽しめる報告であった。
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コメント
とても魅力的な記事でした!!
また遊びに来ます!!
ありがとうございます。。
投稿: 履歴書の書き方 | 2012/06/07 11:22
戦争の一因となるのは、コミュニケーション不全というより、「コミュニケーションの内容を額面通り受け取ることができないようなインセンティブ環境」ということだと思います。つまり、双方コミュ力は相当高くても(高いからこそ?)問題は消えない。あと、自らの発言の責任を負って的確な「突っ込み」を入れることなく「突っ込みどころは色々とあって」とだけ公の場で書くのは失礼なのでは?自分の研究でこういう書き方をされたら不快に思いそうです。
投稿: blogman03 | 2013/05/14 22:54