consumer:出会い系と出会えない系
昨日の日弁連コンピュータ消費者問題対策委員会のシンポジウムで、例に上がった消費者被害の最たるものが、出会い系被害である。
東京都消費生活総合センターの木村さんのご報告でも、「出会い系というと皆さん、ばばっちい感じをお持ちかと思います」といって、要するに女の子目当てのオヤジが引っかかるものというイメージを指摘されていたが、実際の被害は大きく違う。
彼女のご報告の中でも詳しく触れられていたが、女性の被害者も多く、また比較的年配の人々も被害に遭っている。
こうした人達は、別に女の子との出会いを求めてアクセスしたりはしない。
典型的なのは、死にかけた未亡人が遺産を遺す相手を探しているとか、売れないタレントが自殺願望に囚われているので助けて欲しいとマネージャーがいっているとか、要するに困っている人、寂しい人、追い詰められている人などに救いの手を求めているというシチュエーションである。
きっかけは大手SNSだそうで、SNSのミニメールやサイト内メッセージなどで巧みに近づき、出会い系サイトに誘導する。その出会い系サイトというのは、例によってメールを送るのにいくらかの有料ポイントが必要で、これはクレジットカード決済で購入できる。
そして自殺願望のあるタレントなど、連絡が途絶えたら本当に自殺してしまうかも知れないと思った善意な人々が、しかし結構高額となるポイントを購入するときに、マネージャー役が後で必ずポイント購入分はお支払いするといって安心させるのである。
後は、お決まりのサクラテクニックであり、会って話を聞いて欲しいという風にタレント役が持ちかけるが、会う機会はなかなか訪れず、メール送受信のポイントだけが嵩んでいく。出会えばバレるわけだから、出会えない系にほかならない。
やはり昨日のパネリストであった壇先生は、出会い系こそはネット市場最悪の詐欺事件だと言っておられたが、被害金額は10万円の壁を突破し、100万円単位になることも珍しくなく、ヒドイときは1000万円単位になることもあるそうだ。
ちょっとクレジットを使うにしても1000万円というのはいき過ぎ感があるが、100万円台でもヒドイ話には違いない。
日本には出会い系規制法と略される法律があり、出会い系サイトといのうは登録制となっている。ではこんなサイトが登録されて、いわば公認されているのかという疑問も生じる。
しかし上記のようなサイトは果たして出会い系規制法がいう出会い系サイトと呼べるかどうか微妙ではある。
この法律の定義によれば、「異性交際(面識のない異性との交際)を希望する者の求めに応じ、その異性交際に関する情報をインターネットを利用して公衆が閲覧することができる状態に置いてこれに伝達し、かつ、当該情報の伝達を受けた異性交際希望者が電子メール等を利用して当該情報に係る異性交際希望者と相互に連絡することができるようにする役務を提供する事業」を出会い系サイトの事業としており、上記のような出会いは異性交際と言えないかもしれない。
それにそもそもこの法律の目的は「インターネット異性紹介事業を利用して児童を性交等の相手方となるように誘引する行為等を禁止するとともに、インターネット異性紹介事業について必要な規制を行うこと等により、インターネット異性紹介事業の利用に起因する児童買春その他の犯罪から児童を保護し、もって児童の健全な育成に資すること」であり、要するに子どもの保護なのである。
上記のような詐欺被害を防止することはこの法律の目的となっていない。
それに、出会い系サイトの運営者は少なくともサーバーの利用契約を結び、ポイント購入のための決済契約を結び、多少なりとも適法性を装いたいのなら上記の法律の届出もするかもしれない。ということで身元が判明することもないわけではない。
しかし、運営者はサイト利用者同士のトラブルで自分の責任ではないというだろう。自殺願望タレントは、運営者がやらせているサクラにほかならないと思われるが、そのことを立証するのは至難の業だ。
そもそも出会い系サイトの運営者を突き止めるのも、困難な場合が多い。悪質な者ほど届出はしないだろうし、サーバーのIPアドレスはわかるが、その使用者が誰かは不明であり、プロバイダに問い合わせても通信の秘密を盾にとられる。
迷惑メールで誘導されたケースなど、メール差出人は不明だし、そもそもボットネットなどを使って発信されたものであれば、追及は困難だ。
料金を払う方から相手を特定しようにも、海外の決済代行業者を利用してクレジット決済を可能としている場合には、当該決済代行業者に手が届かないことも多い。
そういうわけで、行政庁による法執行も、民事的な救済も、極めて困難な場合が多い。
ただし、行政庁が調査権限を駆使して実情を明らかにし、事業者の身元を明らかにすることは可能な場合があろうし、その場合は責任追及できるであろう。
行政庁にはそうした権限と実行力を求めたい。
それでもダメなら、警察力に頼るしかない。警察には、出会い系規制法のような児童保護だけでなく、詐欺サイトの摘発にも積極的になってもらいたい。
なお、男女の出会いの場を積極的に求めるという需要はある。そのことを否定する趣旨ではない。詐欺サイトとは全く異なるものであり、社会的にも少子化対策のために必要なことである。ただし、ネットでお手軽にカップリングして結婚までたどり着くことは、昔からパソ通で知り合って結婚なんて例もあるにはあったが極少数であり、至難の道だろうとは思う。
でもとにかく、それを否定する趣旨ではない。
| 固定リンク
「消費者問題」カテゴリの記事
- Arret:共通義務確認訴訟では過失相殺が問題になる事案でも支配性に欠けるものではないとされた事例(2024.03.12)
- #ビューティースリー(#シースリー)の脱毛エステ代金をライフティのクレジットで支払った皆さん、埼玉消費者被害をなくす会が取り返す訴訟を提起してます。事前登録をしましょう。(2024.02.01)
- 詐欺まがい広告がでてきたら・・・(2023.11.23)
- Book:柳景子著『契約における「交渉力」格差の意義』(2023.06.21)
- 適格消費者団体とはなにか、Chat-GPTに聞いてみた。(2023.02.20)
コメント
ustで拝見しました。お疲れ様でした。
出会い系サイトの被害事件は数件やったことがありますが,見ていると最初から振込という例はそれほど無くて,最初はクレジットや電子マネーでポイントを決済し,金額が増えてくると振込で,という感じが多いように感じます。
その意味でも被害の入り口を作る決済代行会社の責任は重いです。現場の弁護士が声を上げる機会はなかなかないのでどうにかならんかと思っているのですが・・・
投稿: JD | 2012/03/05 06:51
ご覧いただき有り難うございます。
ニコニコ生放送に対してUstの方は視聴者数が三桁でしたので、通信環境は快適だったのではないでしょうか?
決済代行業者、特に海外の代行業者を通じてクレジット決済を可能とする仕組みは、本来できないはずなのですが、現実は違いますね。
投稿: 町村 | 2012/03/05 11:05
決済代行業者については銀行法との関係でなぜこれが認められるのかという根本的な疑問もなくはないですし,海外の決済代行業者との関係ではさらにそれが強まるとともに,クロスボーダー規制とかどうなのかと,いろいろ思うところはあります。
しかし,ご存じの通り,決済・収納代行については政治的な問題が多いようです。
これは弁護士や消費者センターが事件を解決しつつ情報をあげて,学者の先生方に理論的な部分を支えていただいた上で,政治的決着を図るための運動をする必要がある,と,そこまでは考えています。
ともあれ,これは1人では決して解決できない問題ですから,新しい問題には詳しくない人が多い(勉強しない,する時間を惜しむからだと思いますが・・・反省します)弁護士・実務家の啓蒙のため,先生のような講義をして下さる方は大変ありがたい存在だと思います。
今後もよろしくお願いいたします。
投稿: JD | 2012/03/06 19:24