arret:裁判官の過失を認めて国家賠償を認容した事例
判決の言渡時点でもずいぶんと話題となったが、裁判官が家事審判官として成年後見に監督権限を行使する過程での過失が認められ、国家賠償が認容された事例である。
裁判官の過失を認めた国賠事件は前代未聞といえようが、その法的構成も注目に値する。
事案は、成年後見人に選任された人が被後見人の財産を横領したというもので、成年後見人には知的障害があった(ただし、成年後見人の刑事責任が認められており、知的障害が横領の原因となったとは認められないとしている)。
選任後、成年後見人が被後見人の財産を3600万円も私的に費消していることを調査官が発見し、財産現象のおそれがあると家事審判官に報告したが、担当家事審判官が横領を防ぐのに必要な措置をとらないで放置したため、その後に231万円の着服が行われた。
判決は、一般論として家事審判官の行為が違法となる場合を次のように述べている。
「具体的事情の下において、家事審判官に与えられた権限が逸脱されて著しく合理性を欠くと認められる場合に限られるというべきである。そうすると、家事審判官の成年後見人の選任やその後見監督に何らかの不備があったというだけでは足りず、家事審判官が、その選任の際に、成年後見人が被後見人の財産を横領することを認識していたか、又は成年後見人が被後見人の財産を横領することを容易に認識し得たにもかかわらず、その者を成年後見人に選任したとか、成年後見人が横領行為を行っていることを認識していたか、横領行為を行っていることを容易に認識し得たにもかかわらず、更なる被害の発生を防止しなかった場合などに限られる」
この一般論に対して国側は、裁判官の行為が違法となるためには「裁判官が違法又は不当な目的をもって裁判をしたなどその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認められるような「特別の事情」が必要であると主張」している。しかし広島高裁は、上記主張が争訟手続における裁判官の行為に妥当するものであり、「家事審判官が職権で行う成年後見人の選任やその後見監督は、審判の形式をもって行われるものの、その性質は後見的な立場から行う行政作用に類するものであって、争訟の裁判とは性質を異にするものであるから、上記主張は採用することができない」と判示している。
そして結論として、上記のような事案において、横領行為を認識しつつこれを防止するための監督処分を行使しないことは「家事審判官に与えられた権限を逸脱して著しく合理性を欠くと認められる場合」に該当するとした。
この判断は、裁判官の過失による国賠を認めたという点で画期的だが、従来の最高裁判例で定着していた限定的な責任成立要件を、争訟事件に限られるものと解して、非訟事件は射程から外れるとした点が注目に値する。
民事事件については最判昭和57年3月12日民集36巻3号329頁、刑事事件については最判平成2年7月20日民集44巻5号938頁が従来の最高裁の判例準則を明らかにしている。
しかし、裁判所の過失を認めて国家賠償責任を認容したのはこれが初めてではない。執行裁判所が動産引渡請求権を対象とする差押えの競合に関して、第三債務者の陳述書から先行事件を知った執行裁判所は、配当するにあたって先行事件執行裁判所に通知する義務があるのに、これを怠ったとして国家賠償を認めた例が、最判平成18年1月19日民集60巻1号109頁(PDF)である。
執行手続における義務違反については、原審も最高裁も上記の判例理論による責任限定に言及すらしていないが、本件のような成年後見人に対する監督責任についてはどう考えたらよいのか、にわかには断じにくい。
逆に、本件や執行手続における事例のように、裁判所・裁判官の職務上の過失を認めることが是認されるとすると、そもそもなぜ争訟事件の判決行為には特別の責任制限をしなければならないのかがよく分からなくなってくる。
あるいは、この最近のトレンドから、争訟事件における責任制限の根拠も再検討されるということになるかもしれない。
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コメント
極.簡単にいうと「虚偽事由で提訴され人権侵害された」と訴えたところ「虚偽は、裁判で必要不可欠だ」と判決(1・2審)された。
何を言ってるのと 法に定める理由を書いて上告(受理申立共)したところ 「理由がない」と門前払いされた。
おかしな事言うなと 国家賠償訴訟を提起したら、法務大臣(滝実).法務省は、お得意の判例「特別な事情」がないから、争う.棄却しろと言っているらしい。
検事の「虚偽報告書作成」の時は、あれほど反省し、謝罪したのに、これが、法治国家日本の実力ですか。
誠心誠意の 野田総理へ
投稿: 月光 | 2012/07/18 17:19