佐賀発IT教育利用に思う著作権のあり方
佐賀県教育委員会は、県立高校の全生徒にタブレット型端末を配布する方針を固めたという。
朝日新聞デジタル:全生徒にタブレット端末 佐賀県立高、13年度から
さすがはツイッター学会を立ち上げたり市職員全員をFB会員にしたりという話題の武雄市のある県である。
タブレット型端末というと、iPadを思い浮かべるが、候補はそれだけではないかもしれない。が、ともかくiPadを想定して考えてみると、生徒や学生が全員iPadを使っているという前提では、様々なことが可能となる。
記事では、教室で生徒が端末に解答を入力し、これを瞬時に集計したり、電子黒板に生徒が入力している画面を映しだしたり、というような使い方が紹介されている。
これは要するに、今コンピュータ教室で行われていること、行われうることを、低コストで一挙に拡大できるということだ。コンピュータ教室にしてしまえば普通の勉強に適さない構造となるが、iPadで同じことが出来るとなれば、汎用的な教室でもできるわけである。
それだけではない。タブレット型端末といえば、ほとんどそのまま電子書籍リーダーだ。高校で使うすべての教科書、副読本、そして問題集や参考書などが電子化されれば、あのiPadで一人一人が持ち歩くことが可能となる。iPadにインストールする必要すらない。サーバにあるデータを読みに行けば良いのだから。全校をカバーするWiFiは当然のインフラだろう。
しかし、そのためには教科書から参考書まですべて、デジタル化され、公衆送信権を調達していなければならないという問題が立ちはだかる。
佐賀発のこの動きが全国に波及すると、逆に教育利用に関する著作権の縛りが緩和される可能性もあり、そうなるとさらに電子書籍の有用性が認識され、その上でのコンテンツ産業が発展し、さらに著作権が利用者に使いやすい形に変わっていくという好循環が期待できる。
タブレット型端末が高校教育に本格的に使われれば、当然ながら音楽教育にも威力を発揮するだろうし、体育にも、美術にも、技術にも、マルチメディア(死語)な教材が開発されることだろう。
高校で生徒が一人一人一台ずつのiPadを持っている姿を想像すると、なくしたり、取り違えたり、壊したりといったトラブルも想像できる。しかし少なくとも紛失にはiPadを探す機能が威力を発揮する。取り違えとか、他人の端末を無断使用するといったトラブルには、個人認証によるログインを必須とすることで回避できる。高校生が乱暴に扱って壊すということには、どうにも対処不能だが、コンピュータ端末が身近なものになることで、乱暴に扱わないという常識が醸成されると考えれば良い。
リスクやデメリットは数多いかもしれないが、それより可能性を追求したほうが楽しい。法律家は、いつも暗い面を想像して、泥沼の紛争を想定してしまうのだが、明るい未来に想像力を働かせることも、たまには必要だ。
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