arret:形式的競売にも消除主義と剰余主義が適用される
事案は全く明らかでないが、共有物分割のための競売に民事執行法の定める消除主義と剰余主義が適用になるかどうかが争われ、事件名「担保不動産競売手続取消決定に対する執行抗告棄却決定に対する許可抗告事件」から推測すると、原々審は無剰余と判断して競売手続を取り消し、執行抗告審も本件許可抗告審も同様の判断をしたものである。
民法258条2項所定の競売を命ずる判決に基づく不動産競売について、民事執行法59条が準用されることを前提として同法63条が準用されるものとした原審の判断は、正当として是認することができる。
話は複雑だが、かいつまんで説明してみる。
まず、民事執行法63条とは何か?
普通の強制執行で不動産を競売するという場合、競売を申し立てる一般債権者は債権回収のために申し立てるのだから、申立債権者に多少とも配当がなければ意味がない。
その不動産にかけられている担保権(抵当権・質権など)が普通は優先されるので、不動産の売却価格より担保されている債権額の方が大きいオーバーローンの状態になっていれば、競売は無意味だし、担保権者に有害でもあるので、取り消されてしまう。
例えば5000万円くらいで売れそうな不動産に、一般債権者が差押をして競売しようとしても、その不動産に5000万円以上の債権を担保する抵当権が登記されていたならば、競売しても差押をした債権者には一円も配当されない。かえって抵当権者にとっては、自分が債権回収する必要がまだない時に競売されて債権回収を余儀なくされれば、取引先を失うことにもなる。そこで、差押はしてもオーバーローンが明らかになれば、原則として競売開始決定を取り消す。
これが民事執行法63条の剰余主義である。
次に民事執行法59条とは何か?
不動産競売に際して、設定されている担保権をどうするかは二つの考え方が有りうる。一つは、競売しても担保権は影響を受けず、買受人に引き継がれるという引受主義。これだと売却代金から担保権の分だけ安くなる。もう一つは売却に際して担保権も消滅するという消除主義。これだと担保権なしの不動産を買受人が手に入れられるので、売却代金は高くなるが、その売却代金から担保権者に優先的に弁済される。
民事執行法59条は、消除主義を採用している。
上の剰余主義は、消除主義を前提としている。
そしてこれが形式的競売にも当てはまるかどうかが問われたわけである。
普通の債権回収のための競売では、差押債権者が全く債権回収できない以上、無意味だということになるが、共有物分割のための競売では、要するに共有物をどう分けるかということだから、共有者のそれぞれの持分に応じた財産の分割ができればよい。その財産がオーバーローンとなれば、その財産の価値はゼロかマイナスであり、競売によりそのことが明確になれば紛争解決に資する。それ故、一般債権者と違って、競売により配当が全く無くても、利益がないことはない。ただし、担保権者側が受ける不利益は同じである。
競売開始決定が取り消されるとなるとどうなるか?
被担保債権の弁済期や共有物の譲渡の可能性など、様々なケースが有りうるが、差し当たり競売により共有関係を解消したければ、担保権者と交渉して同意を取り付けたり、先に被担保債権を弁済してしまったりということが考えられる。少なくとも被担保債権を弁済することは、共有者の一人がすることができるだろうし、その場合は担保権を自ら確保できるだろうから、求償も可能となる。もっとも先立つものがなければ無理だが。
そういうわけで、債権回収を目的としていない形式的競売に剰余主義が適用されるというのは若干奇妙だか、問題解決としては有りうる解決策だろうと考えられる。
なお、岡部喜代子裁判官の補足意見が問題状況の把握にも役に立つ。
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コメント
とても魅力的な記事でした!!
また遊びに来ます!!
ありがとうございます。。
投稿: 職務経歴書の形式 | 2012/03/05 11:29
共有物分割請求,形式的競売を調べていてヒットしました。判タ,判時に未掲載の判例でヒントを得ました。場違いですが。
実は相続財産管理人としての案件が2件ありまして。
1件 共有者A,Bいずれも2分の1で,抵当権が設定してありますが,剰余があるので,判例でも申立てが可能であることが確認できました。
もう1件 抵当権等制限物権はありません。しかし,Aの持分について国税が差押えをしました。国税の額は2分の1の価格を超えています。かかるいみでは剰余はありません。税務署は,秋頃に持分権の公売を行うといっています。ここで疑問は,形式的競売を行えば,1個の不動産を売却して持分に応じて配分します。持分の公売では,持分権の市場性が低いので減価されます。結果的に国税の徴収額は低くなります。
できれば,共有物分割請求に基づく形式的競売を申立てたいのですが,滞納処分と強制執行等との手続きの調整に関する法律の適用があるか否か,さらに,国税の額が持分権の価格よりはるかに高く,剰余はないので判例と抵触しないかです。国税の徴収額が増えるだけなのでできると考えるのですが。
投稿: 古賀徹 | 2012/06/28 19:19
古賀さん、こんにちは。
後者の件、滞納処分と強制執行等との手続の調整法は適用があるのではないでしょうか? 担保権に基づく競売を形式的競売が準用しているので、担保権に基づく競売も同法3条などが適用される以上は、形式的競売でも滞納処分としての差押がなされていれば、同法に基づいて処理することなるでしょう。
だとすると、税務署との交渉により、高く売却できる道を選択するしかなさそうに思います。
投稿: 町村 | 2012/06/28 19:35
さっそくありがとうございます。
共有物分割請求の裁判は,家裁の権限外行為の許可が必要となります。したがって,許可申立てについて理論的な説明が必要で困っていたところです。
また,税務署の徴収担当者も,差押えまで行くと,公売を待ってくれるかどうか,融通が利かないことが多く,困ってます。
因みに,函館市のとある業者は,共有持分権を専門に落札し,その後共有物分割を申立てて,他の共有者に買い取らせるか,形式的競売を強行して,差額を稼ぐということをしています。この業者は,全国で入札をしています。
このような経験があり,なんとか形式的競売に持っていきたいと考えている次第です。
文献が少なく,助かりました。
ありがとうございました。
投稿: 古賀徹 | 2012/06/28 19:55