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2011/12/06

law:消費者安全法の改正論議

消費者庁の「消費者の財産被害に係る行政手法研究会」で行われてきた消費者安全法の改正議論が、本日、一段落した。

消費者の経済被害をもたらす重大事故について、行政措置で取引停止の勧告や命令を消費者庁がだせるようにしようという方向で一致した。

この消費者安全法という法律は、消費者庁設置法などと同時にできた新しい法律だが、消費生活の安全を確保するのにすき間がなくなるようにカバーしようというのが立法趣旨だ。

そして、この法律では消費者事故等として(1) 消費者の生命又は身体について政令で定める程度の被害が発生または(2)発生するおそれがある場合と、(3) 虚偽の又は誇大な広告その他の消費者の利益を不当に害し、又は消費者の自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがある行為であって政令で定めるものが事業者により行われた事態の三つを掲げ、これらに該当するときには消費者庁が情報の収集分析をし、資料要求もし、消費者への注意喚起や、他の省庁の所管で行政措置が可能な場合はその措置要求をする。

その上で、(1)と(2)については被害が重大なものとして政令で定めるものが生じたり生じるおそれがあれば、これを重大事故等として、以下のような行政措置を消費者庁自らがすることができる。
 事業者に対する勧告および命令(17条)
 譲渡等の禁止または制限(18条)
 回収等の命令(19条)

このように消費者の生命身体に被害が及ぶ消費者事故(1)(2)については、その重大なものについて行政処分としての命令を消費者庁が出せるのだが、経済的被害のみが生じる消費者事故(3)については消費者庁自身は注意喚起がせいぜいで、行政措置はできない。

そして他の法令によって被害の防止や拡大防止のための措置がとれれば、それでもよいが、他の法令の適用対象とはなっていない場合がある。そのすき間を埋めるために、今回の法改正が企画されたわけだ。

問題は二つ。生命身体に被害が生じる場合の重大事故に匹敵するような、経済的被害が及ぶ重大な事案をどう定義するかということと、その被害が生じたときに消費者庁として何が出来るようにするかという、要件効果のそれぞれが問題だった。

この研究会では、第二回の資料で国民生活センターが財産被害事案について公表した事例(pdf)が示され、そのすべてを幅広くカバーするような要件立てになるのではないかという期待があったが、重大事故とのバランス論に終始影響され、要件を絞る方向での議論が進んだ。

具体的に想定された事案は、交換不可能な外国通貨を値上がり確実だとして消費者に売りつける事案とか、架空の権利を、高く転売できるというサクラを使いながら、消費者に売りつける事案とがある。前者はイラク・ディナールが象徴的に取り上げられていたが、さまざまな通貨が入れ替わり立ち替わり道具として出てくる。また後者は、温泉付き老人ホーム利用権をでっち上げた事例が典型例としてだされた。
いずれも、事実関係が全て明らかになれば、完全な詐欺でもある。後者は買取業者の役と販売業者とが役割分担して消費者を騙す、劇場型と呼ばれる手口だが、これなどは振り込め詐欺に近い悪質な行為である。

こういうのを例示しつつ、それに該当しそうな要件に絞り込むということをしたものだから、これらの事案しか適用されないのではないかと、ひどく狭い要件に該当しないと行政措置が発動できないのではないかと、そのような疑念が生まれ、研究会の議論は紛糾した。

その結果、今日取りまとめられた方向性は、以下のような場合に財産分野の「重大事故等」と位置づけようというものだ。
(1) 他の法律に基づく措置がないため被害発生拡大が防止できないもの
(2) 取引対象が架空の権利であるものなど、消費者の属性にかかわらず、消費者が支払う金額と事業者が提供する商品サービスが著しく対価性を欠くもの
(3) 全体に、看過し難い程度の被害が発生または発生のおそれがあるもの

まだ修正の可能性は残されているが、上記のような方向性は、研究会では概ね承認された。

その上で、消費者庁が取りうる行政処分は、取引中止の勧告と命令であり、例えば回収命令に相当するような原状回復命令は被害回復にほかならないので、今後その可能性を議論しようということになった。

あと、行政処分発動に必要な事実確認は、下記の規定に基づいて実施する。

第二十二条  内閣総理大臣は、この法律の施行に必要な限度において、事業者に対し、必要な報告を求め、その職員に、当該事業者の事務所、事業所その他その事業を行う場所に立ち入り、必要な調査若しくは質問をさせ、又は調査に必要な限度において当該事業者の供給する物品を集取させることができる。ただし、物品を集取させるときは、時価によってその対価を支払わなければならない。

 必要な報告を求める場合に、例えば特商法12条の2後段に見られるような「資料を提出しないときは誇大広告表示に該当するものとみなす」という規定が欠けているとか、あるいは電気通信事業法172条のような意見申出とこれに対する回答義務のような規定がないのは、残念なところである。

(意見の申出) 第百七十二条  電気通信事業者の電気通信役務に関する料金その他の提供条件又は電気通信事業者等の業務の方法に関し苦情その他の意見のある者は、総務大臣に対し、理由を記載した文書を提出して意見の申出をすることができる。 2  総務大臣は、前項の申出があつたときは、これを誠実に処理し、処理の結果を申出者に通知しなければならない。

消費者庁の最大の問題点は、大量の消費者事故に適切に対処できるほどの人員を備えておらず、行政処分をやろうにも調査一つおぼつかないというところである。
例の安愚楽牧場の処分なども、さんざん被害が出て破産までした後になってようやっと、であるから、被害の拡大防止という役割を果たせないでいるのである。
この部分を補うために、新たに巨大官庁を創り上げるというのは、今の時代、無理であろうし、妥当でもない。いささか他人のフンドシで、ということになりそうではあるが、地方自治体、特に都道府県庁の消費者取引監督部署の権限を用いた調査と処分に委ねるとか、被害者からの情報収集には消費者団体の力を借りるとか、外部のさまざまな力を使って行くべきである。

そのような執行体制が強力に整備されない限り、すき間事案に対処できるようになる法律ができても、実効的な消費者被害の防止にはつながらないのである。

そんなことを強く感じた研究会であった。

なお、研究会はこれで終わりではない。消費者被害が発生した場合における被害回復ないし不当利益剥奪を行政的手法によりできないかという課題、そして民事的に被害回復を図るためにも必要な悪質事業者の財産保全のための方策を考える課題が残されており、それは年明けから議論される予定だ。

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