熊本市の100万円たかり事件は単なるパワハラか
読売online:部下に昼食100万たかる…毎日正座させ説教も
少なくとも記事から見れば、ひどい話だが、この状態に2年間耐え続けた被害者は凄い。しかしその耐力が徒となる面もある。
友人の刑法学者が恐喝だ強要だというのだが、ハラスメントとよばれる事件は概して、恐喝や強要、脅迫、ひいては暴行傷害の域にも達することがあっても刑事立件されにくい。
上司と部下といった拒絶の意思を表明しにくい関係の中で、長期間継続的に一定の行為を押し付けられると、外部からは本人の同意があったととられやすい。
この件も、100万円をたかるといった結果に目を奪われるが、毎日二人でたかっていたのだから、一回あたりの金額は一人あたり1000円に満たない額であろう。継続反復してたかっていた以上、一回一回脅しとるということが続けられたのではなく、脅すような行為をしなくても被害者が差し出すような関係になったであろう。そういう場面を捉えると、被害者が自らすすんで出したと評価することも可能になる。
もちろんそのような被害者の同意を真に受けることは不当なことだ。今回のケースを突きつけられたら、誰でも、被害者はマゾで苛められても喜んでたんだろとか、逆らわなかったお前が悪いとか、そういうことは言わないだろう。
多分、この点は多くの人の賛同が得られそうだ。
その上で、他のハラスメント事例、特に対価型のセクハラ事例を思い起こしてみよう。
奇妙なことに、上記のようなケースでは地位を利用して威迫し、継続的に圧迫を加えることで支配力を増大させ、金銭をたかったり言葉でも物理的にも苛めたりしたことを被害者のせいとは言わない人たちが、同様に地位を利用して威迫し、継続的に圧迫を加えることで支配力を増大させ、性的な関係を結ぶことを強要しても、それを強姦とは言わない場合がある。被害者が同意したんだろ、誰とでも寝る女さ、などと侮辱したりする。
同じことはドメスティックバイオレンスにもいえる。
DV被害者は、家庭内という特殊な関係で、長期間に渡る圧迫を加えられ、これに「妻は夫をたてるべし」といった教育の成果とか経済的な依存関係とかの外的な要因が加わって、加害者に逆らえない状況に追い込まれ、暴力に耐えることを余儀なくされる。暴力をもってセックスを迫られても、嫌と言ってはいけないと思いこんでしまったり、「たまに優しくなるのよ」ということで自分の支えにしてしまったりする。そのような環境を背景として、支配関係の中で肉体的または精神的暴力が積み重ねられているのに、被害者がワガママだなどという人がいる。被害者も同意しているんだと言ったりもする。
職場とか学校とか家庭とか、特定の濃い人間関係が生じる場で、対等な関係が崩れると、場合によっては歪な支配関係が持ち込まれ、長期に渡る加害行為が積み重ねられ、破局を迎えるまで続いてしまうということが起こりやすい。
そのプロセスに起こる一つ一つの行為を刑事罰で抑止するのは難しく、結局破局を迎えた後になって処罰する事が出来れば上出来、それすら難しいということもある。
長期に渡る加害行為を直接犯罪化した法律として、ストーカー規制法がある。ストーカー規制法は、つきまといなどの行為を反復してすることをストーカー行為として一年以下の懲役という罰則を置いている。
対してDV防止法は、そのような規定をおいておらず、保護命令違反のみに罰則規定を置いている。その抑止効果の差は大きい。
もちろん、小さな加害行為のすべてを犯罪化してしまうことが良いことだとは言いがたい。しかし支配関係を背景として長期に渡り小さな加害行為を積み重ねてきたケースは、被害者の同意のもとで行われたとは言えないのだ。少なくとも現在よりは、抑止効果のある立法を考えるべきである。
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コメント
処分が甘い。刑事告訴すべき
投稿: シンムラ隆博 | 2011/12/29 20:09