consumer:国センのあり方見直しシンポ
今年の1月に、consumer:国民生活センターの廃止か整理というエントリで議論開始を紹介していた国民生活センターのあり方見直しの件だが、いわゆる「とりまとめ案(PDF)」がTFから出され、その説明と意見聴取を目的としたシンポジウムが全国で開催されている。
7月31日には、札幌でも開催され、その模様はインターネットでストリーミング配信される予定である。
(TFの模様やヒアリング、第1回シンポまでの動画はこちらから)
国センの将来像について、取りまとめ案が提示するのは、独立行政法人としての国民生活センターをほとんどそのまま消費者庁の内部に置かれる施設等機関としての国民生活センターに移管し、消費者庁と重複していた機能は整理統合するとともに、人事も統合して国センのプロバー職員の持つ専門性を消費者庁で活用するというものだ。
事業仕分けで方針として掲げられた民間でできることは民間でというスローガンのもと、国センの解体消滅ということになるのではないかという危惧は、一応払拭され、国の責任の下で従来の国センの機能が維持されるのみならず、二重行政の不効率はなくなり、規制官庁としての消費者庁の機能強化にも役立つという絵が描かれている。
これに対して不安の声は、なおある。
例えば、情報発信について新組織では情報発信チームを庁とセンターとをまたいで設置し、そのチームが消費者庁の行う情報発信のすべてに関わるとされているが、従来国民生活センターが行ってきた積極的な情報発信、特に違法性があるかどうかは断定できないが消費者に注意喚起が必要な情報の公開、事業者名の公開などが、規制官庁の下では萎縮するのではないかという懸念だ。消費者庁となれば、他省庁とのすり合わせも必要かもしれないが、国センならすり合わせ前に発表してしまうこともできるのではないかという疑問もある。
この懸念には、そんなことはないというお答えであった。従来の情報発信機能が損なわれたり萎縮したりすることはなく、むしろ情報の共有により規制や処分に効果的につなげていけるというのであろう。
パイオネットの運用方法についても、消費者庁に統合されることで不便になるのではないかという、これは現状に対する不満が反映されているものと思われるが、漠然とした不安懸念が示された。
事故調査機関という組織もできて、これが商品テストに関与するのだが、その役割は口頭の説明を聞くとよくわからなくなってくる。資料では、事故に該当する事案の商品テストはこの事故調査機関が行い、事故に該当しないもので注意喚起が必要な事案は「施設等機関と内部部局が共同で作業(その際事故調査機関の審議を経る)」とある。しかしその機関はどうも専門家よりも有識者で構成されるようだ。
そんなわけで、色々と不明なところはあるが、ともかく印象に残ったのが、この議論の当初に見られた事業仕分け的発想が影を潜め、野々山理事長や福嶋長官の消費者行政を充実強化していく方向での協力姿勢と、その反面、消費者委員会が消費者行政の根幹に関わる改革に直接関与せず、松本委員長の消極姿勢が際立っていた。消極姿勢というとやや誤解を招きそうだが、現状の独法体制でも問題はないというのが基本的な姿勢である。
札幌開催のシンポの議論の模様は以下のとおり。(Twitterメモに加筆)
・まずタスクフォースのとりまとめ(案)の説明を「とりまとめ(案) について」資料(PDF)に基づいて担当者が行い、その後に野々山先生がコーディネートするパネルディスカッション。消費者庁福嶋長官、消費者委員会松本委員長、札幌市消費者センター黒岩所長、ホクネット道尻理事、北海道消費者協会橋本会長
・松本委員長の冒頭発言によれば、そもそも消費者委員会はこの国センと消費者庁のあり方を考えるタスクフォースに入れてもらっていない。むしろ消費者委員会の本来の仕事ではないかという気がするのだが。ともかく、松本委員長の冒頭発言は、これまで蚊帳の外におかれていたことの鬱憤を晴らすかのようだ(私の感想)。
・続いて札幌市消費者センター黒岩所長の冒頭発言だが、地方消費者行政に悪影響が及ぶのではないか、国センが消費者庁になることで地方との横の協力から上から目線となるかもという不安、しかし基本的には重複整理に賛成とのことのようだ
・ホクネット道尻理事の冒頭発言。国センと消費者庁は立場が違う。国センの独立性と積極性は消費者庁に入って維持できるか、統合には疑問を禁じえないと。
・北海道消費者協会橋本会長の冒頭発言と福島消費者庁長官の冒頭発言の後、野々山センター理事長がこの取りまとめ案に込めた熱い思いを語っている。野々山先生のリーダーシップが今後の制度改革と改革後の運営に活かされるかが鍵だ。
・パネリスト間の議論が事故調査機関と商品テストのあり方に及んでいるが、事故調査機関として念頭にあるのは、航空機事故調査委員会のような存在か?
・事故調査機関は、商品テストそのものに関与するものではないという説明も、野々山理事長がしている。商品テストを実施する機関とは別の存在であることは明らかだが、事故調査とそれ以外の案件を分け、前者は事故調査機関が実施に関与し、従前のテストは従前の機関がやる模様。
・会場からの質問受付。私も質問したのだが、その後、なんのためのシンポか、圧倒的な情報量の差があり過ぎで、ただ説明をして意見を聞いたという外見だけ整えるつもりではないかという質問(?)が出る。これに対して形式的なアリバイではないと、福嶋長官が熱弁。確かに福嶋長官のいうように、TFの資料も議論も動画も公表され、中間整理に対して各地でヒアリングを行い、その意見を取り入れてとりまとめ案を再構成し、今回のシンポに臨むための予習資料は十二分に公開されてきたし、形ばかりのパブリックコメントで終わらせたりしていないというのは事実だ。
・消費者委員会の松本委員長に、なぜ消費者委員会は検討主体とならないのか、今後は検討をするのかという質問をした。松本委員長は、諮問されればもちろん検討するが、本来は消費者委員会のあり方自体も含めてあり方を検討するべきと考えているので、消費者委員会も検討主体としては問題がある、第三者機関を立ち上げて検討していくぺきと考えているとのこと。
・しかし福嶋長官は、消費者委員会も検討審議してきたではないか、そこでも出席して説明し、検討に加わってきたし、消費者委員会から提示された意見は取り入れたという姿勢で、スケジュールは夏の間に法案化という。第三者機関により消費者委員会自体のあり方も含めて見直すという松本委員長の意向は、法案作成前に実現されるだろうか、甚だ疑問だ。
・松本委員長は、一元化以外の解決も含めて、まだまだ時間がかかるとの認識。閣議決定や独法改革のスケジューリングは、特に閣議決定の趣旨からはみ出した今回の改革案に対して、もう無効だという。に対して福嶋長官は、あくまで閣議決定の枠内のまとめ案であってそのスケジューリングで行くのだと。
この部分は決定的に対立しているので、次回東京でのシンポに議論を持ち越すと野々山理事長が引き取る。
・次の質問・意見で面白かったのは、本シンポの参加者が少ないという点に、広報不足を指摘する声。もっとやり方を考えろという中で、関係団体に声かけをするとか、業界でもいいから出席を依頼するなどの方法をせよというご意見。それは今はタブーだろう。
むしろ、会場の対してゆったり目の出席者数という事実から、やらせはもちろん出席動員すらなかったことが伺われる。確かにネットを通じた広報はもっと工夫の余地があるが。例えば、Facebookページを消費者庁なり国センなりで作って、ファンを集め、シンポ企画にも事前に資料を前だしして意見を募ったり、少なくとも札幌近辺の関心をもつ人々に日頃からアクセスしていれば、充実度が違ったのではないかと思う。
・残る質問をすべて取り上げてもらった。質問内容は以下のとおり。
消費者政策レビュー会議は、消費者委員会と類似しており、機能が重複するようにも思うが、その関係はどう考えているのか?
→政策検討を庁内でした上で、必要があれば消費者委員会に建議を求めることも有りうると。
事故調査機関はNITEと重複した機能を維持するようだが、事業仕分けで最も問題となったところで、整理する必要はないのか?
→NITEとの機能分担は従来通りのものを維持すると。
松本委員長も述べていたが、センター職員の公務員化は本当に可能なのか?
→可能だし、消費者庁自体は定員を順次増加しているので、その中でセンター職員の移管を進めていく予定。
時間延長していただいて答えていただいた。国民の意見を十分取り入れ、検討を重ねてきた姿勢が十分示された。福嶋長官も野々山理事長もご苦労を重ねてきたものと思う。
しかし、消費者委員会はもっと関与していくべきという感想は拭えない。
・最後に、パネリストが一言づつ締めの言葉。消費者センター所長のお言葉で、消費者行政の充実は一元化と関係なくできることのはずなので、その実績を積み重ねてほしいというのには全く共感する。
あと、付け加えるとすれば、中央官庁がすべてをするわけではなく、地方行政や消費者団体との機能分担も重要だし、連携ネットワークを強化することが重要だ。国民生活センターが施設等機関となることとは別だが、消費者行政の充実強化という観点では、適格消費者団体などの役割も積極的に支援していくことを基本的なポリシーに組み込んでいくべきである。
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