法制定・施行から10年を迎えたDV対策の課題
DV防止法(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律)ができて、今年で10年という節目を迎えている。
3年ごと、つまり2回の改正を経てきたためか、あまりこの節目の年が大々的には話題になっていないようだ。政府的にはそれどころじゃない状態なのかも知れないが、男女共同参画局のWEBを見ても、特に言及はない。
しかし、世の中ではDVについての意識が確実に高まり、その被害が掘り起こされる一方で、被害者救済の実を上げるにはまだまだ難渋しているというのが現状だ。
被害の掘り起こしは、各地で見られるDV相談の増加に現れている。
福山市男女共同参画センターがまとめた2010年度の相談件数は1457件で、うち「ドメスティックバイオレンス(DV)、離婚関連」が過去最多の733件だった。同センターは「DVへの意識が高まり、幅広い年齢層からの相談が増えている」とみている。
記事をよく読むと、DVに関連する相談が増えているというよりも、「DV・離婚」相談が増えているので、ひょっとするとDVに絡まない離婚の相談が増えているという可能性もあるが、記事にみられる関係者の見解はDVに関する相談が増えているとのことだ。
香川県子ども女性相談センターが2010年度に扱った夫や恋人らからの暴力(DV)に関する相談件数は、前年度比73件増の431件となったことが県のまとめで分かった。全体の約8割を占めた20~40代の相談は、近年、増加傾向にあり、年齢別の記録が残る02年度から約10ポイント増加。県は「啓発活動や窓口の増加などで、若い世代を中心に、恋人や元夫でもDVの対象という認識が広まったのでは」とみている。同センターは、受け付けた各種の相談を「DV」「離婚」「借金」など32項目に分類。10年度の相談件数2669件のうち、DVは16・1%を占めた。
この記事も、添付されているグラフを見ると前年よりは確かに増えているが05年−08年の500件台からすると、むしろ最近は減少傾向ではないのかという疑いはあるが、ともあれ県は増加傾向というトレンドを読み取っている。
たまたま今回Google+のsparksで中国四国が現れたが、その他の地域に関する報道もこれまでなされてきた。
この傾向は、DV自体が増加しているというよりは、法律の施行から10年で、DVについての人々の意識も徐々に変わってきたこと、つまり家庭内だから夫婦だからといって暴力沙汰は許されない、表沙汰にしてでも被害者を救済する必要があるという意識が次第に増えてきたことと、行政や警察の相談窓口や被害者救済の態勢作りが進んできたため、被害が統計的にも現れてきた結果であろう。
相談体制などは既に十分かとおもえば、日本第二の大都市でさえも、横浜市で9月1日から配偶者らからの暴力について電話相談を受ける「DV相談支援センター」を開設するニュースとかがあって、まだまだ不十分なのである。
法的な面に限ってしか述べることはできないが、DV防止法は、人々の意識改革にある程度の成功を収め、被害者がただただ耐えるだけ、最悪の場合は殺されるのを待つばかりという状況は変わりつつある。それは同時に被害者が助けを求められる制度・設備が整ってきた反映でもある。
というのも法律が旗を振って意識が変わったとしても、実際に助けを求めたときに何もしてくれないのであれば、余計に酷い目に遭う恐れがある。そういう恐怖を乗り越えて助けを求めるには、それに希望が見いだせなければならない。
しかしその希望を見出すための法制度はまだまだ十分でない。
現行のDV防止法には、いくつかの改善すべき点があり、各方面からも指摘されているところだ。
全国女性シェルターネット代表の近藤恵子さんのインタビュー記事でも、包括的な性暴力禁止法の必要性が指摘されている。HOTほっとトーク:DV防止へ予防教育を 近藤恵子代表に聞く /北海道◇全国女性シェルターネット・近藤恵子代表に聞く
まあ、この近藤恵子さんのご意見に全面的に賛同するかどうかは別として、女性に対する暴力防止(これはVAWと略される)という観点でも、児童虐待を含む家庭内暴力という観点(これは先日のエントリ「DVは同時に児童虐待でもある」を参照)でも、法制度は不十分だ。
具体的にどのような点が不十分かというと、私の興味関心からは保護命令が問題だ。
保護命令の曖昧さ、中途半端さが仇となって、様々な方面での被害者救済を結びつける役割を果たしていないと思われる。
保護命令の目的が必ずしも明確でなく、切迫した危険にさらされている被害者の救済に十分な制度となっておらず、またDVが表面化した後の法的プロセスで、刑事手続や離婚手続などがあるのだが、そういう手続と保護命令との接続がほとんどないところも問題だ。
こうした問題関心から、来る9月4日に関西福祉科学大学で開かれる司法福祉学会では共同研究者と共にDV対策に関する分科会を担当し、報告する予定である。詳しいところは、学会当日にご披露の予定。→学会ニュースpdf
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