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2011/06/08

gTLDの創設手続刷新

ICANNでは、現在、gTLDの創設手続を新しくする作業をしている。
本日開かれた知財仲裁センターのドメイン名紛争処理手続パネリスト等を対象にした研修会では、JPNICからこの動きについて詳細な説明があった。
基本となる資料は、ICANNのサイトにあるMay 2011 New gTLD Applicant Guidebookである。

このgTLD創設手続の刷新を一言で言うならば、ICANNの方がイニシアティブをもって新しいgTLDを創設する態勢から、レジストリ業務を行う事業者がイニシアティブをもって新しいgTLDを作り、ICANNはそれが適切である限り、認めるという態勢に切り替えるというものである。

やや不正確な喩えだが、特許主義から準則主義への移行といっても良いかもしれない。

ただし、gTLDを創設して運営するにはレジストリ業務を安定的に行い、様々な紛争にも対応できる能力が必要なので、一般の人がドメイン名を取得するような形でgTLDを創設することはできない。私が.matiというgTLDを作りたいと思っても、無理である。

そうは言ってもgTLDを創設して自らレジストリ事業者となりうる能力ある会社は数多く、専業である必要もないので既存の企業が大挙して算入することも考えられる。そうなると、.blogとか、.photoとか、.videoとか、.cinemaとか、様々なgTLDが乱立する可能性がある。乱立は上等なのだが、同一のgTLDを作りたいという申請が多数出てくる可能性がある。その場合は、協議により一申請に絞り、協議が整わない場合はオークションにより決めるという。

それよりも問題なのは、例えば.toyotaとか.japanとかを関係ない事業者が取得してしまうことがないかということだ。国名は登録不可としており、都市名などは国や地方政府の推薦が必要、そのほか他人の権利を侵害するgTLDは異議により排除するとしている。

異議事由には、公序良俗違反とかいうのもあるので、.fackなんてのは駄目なのかもしれないし、.naziとかいうのもひょっとしたら駄目かもしれない。

そうした制限に触れなければ、無限の可能性がある。そしてドメイン空間がそのように無限に広がるとすると、今までのように社名とか商標名とかを防衛的にすべてのTLDで取得しておくとか、すべてのTLDで商標権侵害を差し止めるというようなことは不可能になる。

そこで、商標権を代表格とする知的財産保護策が強化されなければならないというわけで、以下のような方策が検討されているようだ。

・Trademark Clearinghouse
 要するに知的財産として保護される商標等について登録することにより、様々なgTLDのいずれについても同一文字列が登録された場合は通知を受けたりできるようにしようというものだ。世界中の登録商標が対象になるから、当然ながら同一文字列が多数者によって登録されたりする。
ガイドブック該当部分pdf

・Uniform Rapid Suspension
 個人的には最も興味深かったのが、このURSだ。これは一言で言うと、仮処分である。それも係争物仮処分と仮の地位仮処分を組み合わせたような制度のようである。
商標権者が登録者に対してUDRPで削除または移転を求めるには時間がかかる。あたかも訴訟で権利を確定させるのには時間がかかるのと同様である。
そこで不正目的で登録かつ使用されているドメイン名を特定して仮差し止めの申立てを商標権者がすると、紛争処理機関は申立て要件が充足されていることを確認し、レジストリに申立てがあったことを通知し、レジストリは24時間以内に当該ドメイン名を凍結しなければならない。(係争物仮処分)
その上で、登録者に仮差し止め申し立てに対する答弁を求め、登録者は2週間以内(1週間延長可)に答弁をする。この申立てと答弁とを勘案して、紛争処理機関の下でのパネリストが仮差し止めの可否を判断する。
この手続で求められているのは仮差し止めであり、移転または削除ではない。移転または削除は、あくまでUDRPで行うことになっている。
ガイドブック該当部分pdf

・Trademark Post-Delegation Dispute Resolution Procedure
 これは、gTLDのレジストリが商標権侵害行為を行っているという場合に、商標権者がgTLDレジストリを相手にレジストリ業務の停止や契約解除を求めるというものである。
 昔、.comドメインでbank.comというドメイン名を取得し、そのサブドメインにmitsubishiとかmitsuiとかmizuhoとかを設定するという手口が有りうると言われていたが、それに近い場合が念頭にあるのであろう。
 もっとも、例えばあるgTLDレジストリが組織的に商標権侵害行為を行っているとして、そのドメイン名登録業務を解除してしまったら、そのレジストリに正当に登録している人たちはどうなるのであろうか? ドラフトガイドラインには登録者の登録を削除したり移転したりしないとあるが、可能か?
 この手続には、discoveryも予定されており、Burden of proofも規定されており、なかなか裁判手続に近いものを想定しているようだ。

 この新しいgTLD創設手続と権利保護手段は、次回の6月20日シンガポール会議にて、順調に行けば決定され、想定されているスケジュール通りなら今年の11月から2ヶ月間、最初のgTLD創設申請が受け付けられる。2ヶ月で申請を一旦閉め切ると、同一文字列の申請の調整や権利侵害の事前予防のためのチェックなどを行い、問題がないものからgTLDとして認められていく。争いのあるものは1年以上かかるという。それが一段落したら、また申請を受け付けるそうだが、ビジネス的に旨みのあるgTLD候補は最初の申請受付期間であらかた申請されてしまうだろうから、最初が勝負ということのようだ。
 それまでに、上記のTrademark Clearinghouseも作成して登録を受け付けるようで、自己の商標や名称の保護を強化したい主体はのんびりしていられない。.hokudaiなんていうのが作られないように、あるいは自ら取得するチャンスではある。

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