arret:民訴新判例:民訴38条後段の共同訴訟と法9条の適用
*タイトル修正済み。コメントでのご指摘多謝です。
過払い金返還を3社に求める場合に、義務履行地たる原告の住所地を管轄する地方裁判所に訴えを提起した。被告それぞれに対する請求額は140万円を超えないが、合算すれば140万円を超えるという場合に、民訴9条によれば、合算額で管轄が決まる。
(併合請求の場合の価額の算定) 第九条 一の訴えで数個の請求をする場合には、その価額を合算したものを訴訟の目的の価額とする。ただし、その訴えで主張する利益が各請求について共通である場合におけるその各請求については、この限りでない。(2項略)
ところが、過払い金請求権を複数の被告に請求するということは、同種の訴訟で併合することはできるのだが、被告相互の関連性は薄いので、併合することで新たな管轄が生じるというのはおかしいという問題がある。
このことは、土地管轄に関する第7条に次のように規定されている。
(併合請求における管轄) 第七条 一の訴えで数個の請求をする場合には、第四条から前条まで(第六条第三項を除く。)の規定により一の請求について管轄権を有する裁判所にその訴えを提起することができる。ただし、数人からの又は数人に対する訴えについては、第三十八条前段に定める場合に限る。
ここでいう第38条前段というのは、主債務者と連帯保証人に対する訴えとか、同一事故から被害を受けた複数の被害者が提起する損害賠償請求訴訟などである。複数の被告に対する過払い金請求は、第38条後段に当たり、7条の関連裁判籍は生じない。
では9条の併合請求として価額を合算することはできるか?
被告の一人は簡易裁判所への移送を申し立てた。そして原審裁判所はこれを認めたのだ。すなわち、第38条後段の場合に複数請求の合算による事物管轄は生じないというわけである。
これに対して最高裁は、以下のように判示した。
法38条後段の共同訴訟であって,いずれの共同訴訟人に係る部分も受訴裁判所が土地管轄権を有しているものについて,法7条ただし書により法9条の適用が排除されることはないというべきである。
その理由は、極めて説得的だが、7条の併合請求における管轄権は土地管轄に関するもので38条前段に限るというルールも土地管轄を不当に発生させるのを防ぐ趣旨なのだから、9条の事物管轄に同様の制限を認める必要はないということである。
異論の少ないところであろうし、原審がなぜこうした判断をしたのかが疑問に思われるほどだ。
旧法下の下級審で同旨のものとして、仙台高決平成3年11月15日判時1412号114頁がある。
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コメント
(先生、このご投稿のタイトルが、「36条」になっちゃっています。「38条」かと・・。)コソッ
投稿: smmtats | 2011/05/24 18:46
なぜ原審がといえば、過払金返還請求事件で、同一原告で被告多数とか、同一被告で原告多数という事件を起こす弁護士が少なくないからでしょう。
中には原告多数対被告多数で当事者関係が複雑怪奇なものもありますからなぁ。
経験的にいうと、そういう訴状に限って出来が(以下自粛)。(__);
投稿: えだ | 2011/05/24 20:28