TV:原発が事故ったからってがたがた言うなと言う人たち
切込隊長がBlogos「勝間和代女史が寝返った件(いい意味で)」で紹介していた。
朝生で、勝間女史は津波の死者数と原発のそれとを比べて報道のされ方がアンバランスだという。
池田信夫先生は、原発の安全性を高めると火力発電に競争で負けちゃうから、そうはできないという。
このうち勝間さんは、悔い改めたらしい。→原発事故に関する宣伝責任へのお詫びと、東京電力及び国への公開提案の開示
ま、ちょっとこの提案の中身はどうかと思うのだが、それはともかくだ。
上記の池田先生の発言は、津波や地震で原発本体が壊れていないとか事実誤認*もあるが、ある意味で今までの原発推進政策の本音を言い当てている。経済性が大事で、火力より安く上がらなければ意味がないから、安全性を高めるのはほどほどに、つまりはリスクも飲み込んで作ってきたわけだ。
*2号炉の格納容器の一部をなすサブレッションプールが破損した可能性は既に爆発当日である15日の発表されている。それが地震の揺れのせいであることや、大量の放射性物質がその時点で排出されたことは、当時も分かっていたそうだが、最近発表された。
なるほど経済性は大事だ。しかし、リスクが伴うこと自体を否定して絶対安全だといってきたのは、要するに嘘っぱちだったわけだ。
で、結局リスクはある、仮に現実化したら巨額の損害が発生する、仮に事故が起こらなくても、いずれは廃炉もしなければならないし、日々膨大な量を生み出している使用済み核燃料も処理しなければならず、それらの費用はリスクではなく文字通りのコストだ。
そういうコストやらリスクやらは、原発に当然伴うものなのだとすれば、そのコストを誰が負うのかという話になる。
原発に伴う将来のコストを負わせたら、経済性が悪くなって火力発電所に負けちゃうと宣う池田先生は、きっと原発事業者に負わせるべきでないというのだろう。とすると誰が負うのか?
今みたいに事故が起こったら、リスクが現在化してコストが可視化されるわけだが、前にも書いたように、被害者にコスト負担させて泣き寝入りさせるか、国という打ち出の小槌(実は税金)に負担させるか、さもなくば原発を使って発電をし、その電力を使用してきた電力会社とその顧客か、いずれかしかない。
誰が負担すべきかは明らかだろう。第一次的には電力会社がコストを負担すべきで、それを顧客に価格転嫁するかどうかは経営判断だが、税金に泣きつくくらいなら受益者負担でなんとかすべきだ。背負いきれずに倒産してしまうなら、仕方ないから税金で被害者救済もするが、電力事業自体は再建しなければならないから、その将来収益からも回収する仕組み、国が公的資金で優先株を取得するなどの方策で行くべきだ。
そして私見ではさらに、原発のコストは全原発利用者が負担すべきだから、今回の事故の賠償や処理費用も含めて、将来の廃炉・使用済み核燃料処理費用も含めて、原発コスト負担を平準化するような基金を作って、全原発利用者が負担すべきなのである。→liquidation:東電の賠償義務を他の電力会社も分担するのは当然
なお、欲得づくで醜い発言をする経済人が目立っているので、ここでメモしておこう。
産経:経団連会長、「原発賠償は国の責任」 東電国有化論は一蹴
この人は、そもそも今回の事故が不可抗力に当たるのだと言いたげで、過去の津波被害を考慮した安全基準を作らなかったことの問題を東電には問わないという。上記の池田先生と同様に、安全なんかに金をかけていたら高くなっちゃうだろという趣旨かどうかは分からない。そして、損害は国が面倒見ればよいという趣旨のことをいう。共産主義者ですか?
全国銀行協会の奥正之会長(三井住友フィナンシャルグループ会長)は14日の定例記者会見で、福島第一原子力発電所の事故の損害賠償は大半を政府が負担すべきだとの考えを示した。
奥会長は「地震や津波の規模は想定以上。因果関係を冷静に分析すれば、東電の免責が検討される余地がある」と語った。政府の支援が「東電の経営だけでなく、株や社債の市場全体に好影響を与える」とも述べた。
東電の緊急融資に応じた銀行業界のポジショントークとしてみれば、 理解できないことはないが、要するに私利私欲に駆られた発言だ。どこの世界の金貸しが、自分の貸し混んだ企業が潰れそうだからといって政府に面倒見ろとツケ回しを迫るのだろう? こういう発言は酒場の愚痴混じりか、あるいは密室の中でのみ発言できることで、公の場で発言できることではないはずだった。
ところが、バブル崩壊後の金融危機で公的資金と低金利のうまみを当然のように味わってきた金融業界は、利息は自分たちが取るが不良債権になったら政府につけ回しするというのが習い性になっている用である。
そして、そのときに決めぜりふとして出るのが、金融市場の安定だ。思い起こせばダイエーの時もJALの時も、経済が、金融が、混乱するからつぶせないとごねる連中がいて、早期解決ができず、倒産処理が随分遅くなり傷を広げた。今回も、早くも金融市場の安定は重要だと応える政治家がいて、やっぱ税金で穴埋めするしかないよという雰囲気が立ち上りつつある。
しかし、コスト無視の放漫経営をして行き詰まるような企業は、市場から退場してもらうというのが金融秩序ではなかったか?
もう一人。
東電の株主責任について - 佐久間 裕幸
この人は東電の責任を株主に負わせるのはおかしいとして、有価証券報告書その他の開示によりリスクが示されていなかったのだから、という。
しかしもともと株式投資は自己責任の世界であり、それも出資額の限度でしか責任を負わない有限責任なのだ。それが紙くずになったところで、社会の誰に文句を言えた義理でもない。ただし、適切な開示を行わなかった経営者に文句を言うことは認められている。それはそれで勝手にやればよい。国の安全基準自体が甘すぎたから事故が起こったので、国賠を追及するというのは、それもまあ勝手にやれば良い。裁判所はいつでもWelcomeだし、仮に国が敗訴すれば税金からの支出も正当だ。しかしその手続をパスして救済してもらおうとしても、そうは問屋が卸さない。
潰れそうだから税金で助けてもらって、なおかつ株式も保有し続けたいという虫のいい話をするのであれば、1000万円までの銀行預金で我慢しておくべきであろう。
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コメント
目に見えることは人間の力で改善できるが、目に見えないことを解決しなければ、それ以上の惨劇を繰返さなければならなくなる。
心は、人間の努力だけでは改善できない。
私たちが、今、しなければいけないことは、『救世主スバル元首様』に、救いを求めることだ。
もう、時間がない!!
http://www.kyuseishu.com/tanuma-tu-koku.html
http://miracle1.iza.ne.jp/blog/entry/2237566/
投稿: hikaru | 2011/04/16 21:24
公認会計士の佐久間さんの株主責任の記事はいろんな意味で面白いですね。
おそらく佐久間さんの前提では(無対価の)「100%減資」というのはそう簡単に認めてはならない特別な制度だ、という理解なんじゃないでしょうか?
裁判所の監視下での法的倒産手続といった特別の場面でしか認めてはならない、特別な制度という前提に立っている気がします。
このような特別な制度を使うだけの帰責性が株主にあるか?という形で議論が進められていますよね。
こういう理解は平成17年会社法の立案担当者等の方向性とは大きく反するものですが論理的にありえなくはないかな、という気がします。
そして、町村先生は、普通に、支払不能で破産開始原因があるような場合は、株式の価値は0といえるという理解で進めていて
さらに、法的倒産も視野に入れつつも、さしあたり法的倒産に入るか否かは、また別の手続の問題として理解しているのではないでしょうか。
ま、実務も含めて今の圧倒的多数の理解はこちらの町村先生の理解だと思うのですが...
だとすると佐久間さんも法的倒産に入れば100%減資になるのは認めるんじゃないですかね?
実務家の中には学界の少数説によってる場合があるという面白い例だと思います。
ただ、JALとの対比の記述の個所などで、理論的にちゃんとDistinctionし切れていない気がして、本当に私が言うような理解で書いたのかわかりませんが...
最後の段落は完全にギャグですね。大いに笑わせていただきました。
投稿: 故元助手A.T. | 2011/04/19 04:28
ギャグかぁ、そうかぁ。
自己責任を取れないなら適合性原則に基づく立法も考えなければというのもギャグかな。
投稿: 町村 | 2011/04/19 13:09
適合性原則...(笑)
佐久間さんの考えでは今後は原発関連情報が義務的開示の対象になっちゃうよくらいまでは考えましたが
まさか適合性原則とは...
確かにその通りですね、さすがです。恐れ入ります。
理系院卒もしくは偏差値60以上の理系学部卒でないと電力会社の株は買えない、とかですかね。
投稿: 故元助手A.T. | 2011/04/19 13:49