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2011/04/08

law:放射線と健康被害の因果関係・補足

前エントリでは、要するに福島第一原発周辺で政府が安全だというから居残った場合に、後に放射線によるものと思われる健康被害が発症したとしても、放射線被曝と健康被害との因果関係が「高度な蓋然性をもって証明」できなければ、賠償も受けられないということを述べた。

そこで、「通常時の水準を上回る放射性物質の増大または被曝放射線量が認められる場合には、その放射線の影響によるものでないことが明らかな場合を除き、健康被害または既往症の悪化に関する損害を賠償する」という趣旨の条項を入れておくべきと主張した。

これに対してコメント欄で、それだとすべての癌を救済する必要が生じるとの反論を受けた。しかし、私も癌をすべて今回の事故に関係すると主張するものではない。賠償範囲の絞り込みは、因果関係がないとはいえないという範囲に広げたとしても、時期的、空間的、あるいは症状的に限定がかかり得る。

ただし、放射線被曝と健康被害のつながりが明確でない場合に、どこまで救済すべきかという問題なので、従来よりも救済範囲を広げることは否定するものではない。問題は、その当不当である。

今回の福島第一原発の事故は、日本の史上初の深刻かつ広範囲な原発事故であり、原賠法の適用が本格的に試される初のケースでもある。そして政府による避難・屋内退避の指示が広範囲にわたって出された。その一方で、通常時では考え難いような高いレベルの放射性物質放出にも、「直ちに健康に影響を及ぼすものではない」との言説を政府が発している。
こうした政府の言説は、放射線にさらされるおそれのある人々がとりあえず依拠して行動することを前提にしている。中央政府が避難指示を発するか、屋内退避を指示するか、はたまたしないかによって自治体は住民に説明と誘導を行い、避難場所や交通手段を確保する。住民の大部分がその指示に反するような行動をすることは予定されていない。
だとすれば、その政府の指示に従い、特に高いレベルの放射線が検出されても政府が安全だというから避難しなかった人々が、後に放射線被曝に起因する可能性のある健康被害を受けた場合には、政府に賠償を求めるのが当然だと考えられる。
その際、健康被害を受けた人たちに対して放射線被曝と健康被害との因果関係を「高度な蓋然性をもって証明せよ」というのは酷であろう。

加えて、この避難指示をするかどうかは純粋に放射線量からのリスク評価だけで判断されるものではなさそうであり、避難が現実に可能かどうか、そのコスト負担なども勘案して避難を指示するかどうかを判断しているようである。特に20Kmから30Km圈が屋内退避=シェルタリングという暫定措置のまま放置されているのは、避難させるコストが重すぎるからという事情もあるという。

つまり、避難を指示するかどうかは社会的なコストベネフィットの考量により決せられているわけで、コストに見合わないリスクは切り捨てられている。予防注射などと同様に、大きなベネフィットの前では小さなリスクが切り捨てられるのと同様であり、「直ちに健康に影響を及ぼすレベルではない」との評価は「ごく僅かな健康被害は生じても仕方がない」という評価を伴っているのだ。

だとすると、そこで社会的なコストのために犠牲にされた損害は、可能なかぎり社会全体で負担すべきというのが通常の考え方である。
通常は、「過失」の評価についてこうした考え方が取られるが、因果関係でも同様の思考が妥当する。つまり、放射線被曝が健康被害をもたらす因果関係が極めて小さい(直ちに健康に影響を及ぼすレベルではない)ということを理由に避難指示をしない(仮に被害が生じてもやむを得ない)という判断をするのであるから、その例外的にしか生じない被害発生は、避難指示をしないという決定が予定していたものであって、賠償ないし補償の対象とすべきだということになる。

過失評価は法的評価だが因果関係は事実に関するものだから、両者は別だという反論も考えられるが、因果関係であっても、どの範囲までを賠償範囲・保護範囲とすべきかという問題は法的評価なのである。事実として因果関係が否定されるのであれば、そもそも議論の対象とはなっていない。

あと、コメント欄では割合的賠償の可能性が指摘されているが、因果関係を認めた上で割合的賠償を認める余地はあるだろうと思われる。個別事情により、例えば既往症とか喫煙・飲酒等のリスクファクターなどを考慮して賠償範囲を減額することはありうる。
そのような調整は考えられるところだが、現在の因果関係の考え方をそのまま当てはめれば、それ以前に賠償ゼロ評価が起こってしまうのだ。

つまり、政府が安全だというから避難しなかった人たちが、放射線被曝との関係を否定出来ない健康被害が生じても、その賠償を求めるには被曝と被害の因果関係を「高度な蓋然性」をもって証明できた場合だけ、というのが現状である。
それでは政府の指示にとりあえず従うという行動が妥当ではないということになる。

政府の現在の指示に信頼性を高めるには、せめてもの措置として、将来の健康被害は必ず賠償・補償しますよという保証を与えておく必要があり、それが「通常時の水準を上回る放射性物質の増大または被曝放射線量が認められる場合には、その放射線の影響によるものでないことが明らかな場合を除き、健康被害または既往症の悪化に関する損害を賠償する」という趣旨の条項なのである。

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