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2011/04/06

law:放射線障害に賠償責任を追及するにも因果関係がカベ

原発事故により、放射性物質が環境にまき散らされ、これに対して政府は「直ちに健康に影響するとはいえない」から安全という言説で国民をなだめている。
他方で、原子力損害の賠償に関する法律では、無過失責任が定められているから、仮に原発事故により健康被害が生じたなら、東電、最終的には政府が賠償する、切り捨てられることはなさそうだというのが一般の理解だと思われる。
(原賠法は異常に巨大な天災地変免責があるが、それは別とする。また賠償限度額があるというのは誤解だ。)

しかし、原賠法にせよ何にせよ、賠償責任が認められるには原発事故と損害との間に因果関係がなければならない。そして因果関係を認めるには、事故によってその損害が発生することが「高度の蓋然性」をもって証明しなければならないのである。これは訴訟上の原則だが、これを前提として行政上の認定基準としてかなり厳格な因果関係認定を要求している。

さて、今回の原発事故で「直ちに健康に影響するとはいえない」放射性物質の量・放射線量が周辺地域にまき散らされ、また海洋汚染により魚介類にも放射性物質が検出されているわけだが、これらに接触した人たちが後に健康被害を発症したときに、賠償責任を追及できるのか?
賠償を受けるには、「高度の蓋然性」をもって因果関係を立証しなければならない。これはかなり高いハードルである。

従来の原発関連訴訟でも、この因果関係の立証は高いハードルとして被害救済を阻んできた。

例えば、原賠法が適用されたJOCの臨界事故のケース。
東京高等裁判所は平成21年5月14日の判決で、東海工場内にいて6.5mSvの放射線量(この値にも争いはある)を事故によって被曝したと認められている原告らが、PTSDや既往症の悪化を被ったとして原賠法による損害賠償を求めたのに対し、因果関係の立証がないとして請求を棄却した。

その判決中で因果関係については以下のように述べられている。

「具体的事実の認定を経た上で、その事実に基づけば高度の蓋然性が認められる場合に、これを肯定することができるものであり、そのような事実が具体的に認められない場合、また、認定された事実に基づいては高度の蓋然性を認めることができない場合には、これを肯定することはできない」

そしてこの具体的な原告らのケースについても、原発事故と精神被害・身体被害との因果関係を認めるに足る事実が認められないと判断した。

これは何も原賠法に限ったものではなく、水俣病や肝炎などの大型損害賠償請求事件でも大きなカベとして救済範囲を限定してきたのである。

これに対して救済策はないのかというと、実体法(賠償を認める要件を定める法律)が因果関係の立証を軽減するという方法がある。

例えば、原爆被害に関するもので、しかも行政処分に関係するものだが、原子爆弾被爆者に対する特別措置に関する法律(昭和43年法律第53号。平成6年法律第117号により廃止)5条1項が挙げられる。
 この条文は、健康管理手当の支給の要件として、被爆者のかかっている造血機能障害等が「原子爆弾の放射能の影響によるものでないことが明らかでないこと」としており、「放射線と造血機能障害等との間に因果関係があることを要件とするのではなく、右因果関係が明らかにないとはいえないことを要件として定めたもの」と解釈されている。
→参考:最判平成12年7月18日判タ1041号141頁

従って、今回の原発事故に起因する人身被害を幅広く救済するためには、現在の原賠法のままではダメで、東京電力や日本国政府との間で将来の損害賠償についての約束を取り付けておいて、その中で「今回の事故の後で放射線の増大が認められた地域では、当該放射線の影響によるものでないことが明らかな場合を除いて、賠償する」という条項を定めておくべきだ。
あるいは、少なくとも国の賠償・補償に関して、上記の特措法にならって、「通常時の水準を上回る放射性物質の増大または被曝放射線量が認められる場合には、その放射線の影響によるものでないことが明らかな場合を除き、健康被害または既往症の悪化に関する損害を賠償する」という趣旨の条項を入れておくべきだ。

そのような措置をしないまま、「直ちに健康に影響するとはいえない」という言説に頼っていると、いつしかそれが賠償責任を否定する言説にすり替わってくるおそれがあるし、そうなってからでは遅いかもしれない。

事態が収束したとはいえない段階で賠償責任を云々するのは早すぎるというのが一般的な感覚かもしれないが、将来の損害が金銭的にカバーされるかどうかは現在のリスクを避けるかどうかの判断要素ともなるのである。
風評被害を拡大させないためにも、万一健康被害が現れたときは、幅広く救済するという仕組みが用意されている必要があるのだ。

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コメント

 放射線で後期に発生する障害は放射線被爆の増加がなくても発生するものです。水俣や予防接種肝炎のようにその原因がなければその結果はまったく生じえなかかったと容易に予想されるものとは異なります。
 したがって先生の提唱されているような条項は適当とはいえません。たとえば放射線と癌との因果関係はたとえ自然放射線といえども否定できないというのが正確ですから、すべての癌を救済する必要が出ます。今の損害賠償訴訟では確率を用いた被害割合の調整を行わないからこういうことになるのです。放射線による癌の増加が1%予想されのなら1%だけ保障するようにするなどの運用が適当と思われます。

投稿: mktaxi73 | 2011/04/07 09:07

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