Bankruptcy:東電破綻でも大丈夫という記事
WSJ:【オピニオン】東電は必要なら破綻も-電力会社は銀行ではない
この記事では、東電を国費により救済する必要はなく、破綻させ、場合により法的倒産処理手続に乗せば良いとされている。
ここまでは全く賛成だ。東電の救済は最悪の選択肢という著者の意見にも全く同感。
しかし、この著者が見逃しているのではないかと思われる点がいくつかある。
要するに被害者救済は誰かがしなければならず、またこの記事でいう「保険機構」は東電の救済を意味するものではなく、法的倒産処理とも両立する仕組みだという点だ。
これまでもこのブログで述べてきたように、東電の経営を傾けている原発事故賠償の巨額さと事故原発の処理コストの巨額さ(というか不透明さ)は、いずれも切り捨てるわけにはいかない。被害者救済は可能な限り完全に行われるべきだし、事故原発と使用済み核燃料の処理は不可避だ。
これらのコストは、仮に東電が破産し事業だけ他事業者に譲渡するとなると、その関係では切り捨てられる。後は、結局国がその埋め合わせをするかしないかという選択しかない。というより選択の余地もなく、国が全部面倒をみるということにならざるを得ない。日債銀や長銀のケースを思い起こすと、これはこれで東電救済となんら変わらない最悪の処理方法である。
また、他の原発を抱える電力会社も、万一の重大事故が起こったとき、そのコストを自社だけで負担することが出来ないのは明らかだ。
#差し当たり浜岡原発を抱える中電とか、敦賀の原発銀座を抱える関電とか、東電の今の苦境を目の当たりにしながら、自らの重大事故に備えた態勢作りに必死に動こうとしないのが不思議でならないのだが、ひょっとすると自らが連呼していた「絶対安全、事故は起こりません」という呪文に自分自身も騙されているのではなかろうか?
それはともかく、一電力会社で原発のコストを賄うことが不可能であるならば、その危険をもっと分散する仕組みが必要で、現在の原賠法の仕組み(→principle:原発事故の賠償責任は受益者負担参照)の損害引き当て・強制保険・補償契約の飛躍的強化が必要だ。
それは、取りも直さず今検討されていると言われている損害賠償機構案に他ならない。4月13日段階では「共済制度」として報じられていた(→liquidation:東電の賠償義務を他の電力会社も分担するのは当然参照)が、今日は「原発賠償機構(仮称)」と報じられている(読売:政府、電事連に東電賠償負担を要請)。これは過去の賠償も分担を要求する限りで悪名高き奉加帳方式だが、これまで「安全でコストの低いエネルギー」として原発利益を享受してきた以上、その見えないコストが顕在化したのであるから、負担に応じるべきである。
このように電力会社等の原発利用者が原発のコストを分担すべきだということと、東電が今回の事故賠償責任から救済されるということはイコールではない。東電を救済すべきではないという意見には、私も全く同感だが、東電を破産処理しても払えない債務(特に被害賠償と廃炉・使用済み核燃料処理コスト)は、誰かが負担しなければならず、それは税金にいきなり行くよりも前に、原発受益者が広く負担すべきで、それが「原発賠償機構(仮称)」の仕組みなのである。
もちろん当初の立ち上げ時には、いわゆる公的資金という税金を相当程度つぎ込むことになろうが、いわゆる真水部分はそれほどでもなく、また現実に税金から支出した部分も東電またはその後継会社の優先株を取得することで、将来の償還を見込むことができる。国債などに頼るよりはよほど確実かつ公正だ。
ちなみに電力会社は独占会社であるから、最終的に潰れることはありえず、コストは価格に転嫁して回収することが保証されている。
なお、電力料金値上げの動きも現に出ていて、これにも反発は強いが、上記の受益者負担エントリで書いたように、電力会社等が負担するということは価格に転嫁し、結局電力需要者が負担することなのだから、電力会社に払えという以上はやむを得ない帰結である。
| 固定リンク
コメント
今回の損害は人為ミスによるものですから、「原発のコスト」とは言わないでしょう。あるパン屋がパンを作り損ねた場合、その損失を他のパン屋が分担するとか、パン代に上乗せするとかならないでしょう。電力は自由化されていて、電気を東電から買わなくても特定事業者から買えばいいのですから、東電が賠償金を電気代に上乗せすれば、ユーザーが乗り換えるだけでしょう。
投稿: とおりすがり | 2011/04/27 00:35
加湿による損害もコストでしょう。パン屋の例でいえば、作り損ないの材料費はそのパン屋のコストだし、当然パン代に跳ね返るでしょう。
東電のサービス地域にいる人が、簡単によそに乗り換えられるのですか?
投稿: 町村 | 2011/04/27 02:07
作り損ないのパンのコストを売値に上乗せすれば、そのパン屋は競争に負けて潰れます。競争があればパン代には跳ね返りません。
電気を売ってくれる所は、一般電気事業者(東電)以外に、特定電気事業者、特定規模電気事業者があります。
http://www.kanto.meti.go.jp/seisaku/denkijigyo/index_gaiyou.html 経済産業省関東経済産業局
契約電力が50kw(100Vなら500A)以上なら、特定規模電気事業者から電気を買うことが出来、すでに東電管内では5%が東電以外の特定規模電気事業者から電力供給されています。
http://www.enecho.meti.go.jp/denkihp/genjo/seido.pdf
資源エネルギー庁「電力小売市場の自由化について」P7
投稿: とおりすがり | 2011/04/28 00:51
今言われているように発電と送電に分離して、発電部門を賠償母体の会社の管理下に置く。そして一時的に発電部門を国が買い取ってその買収金額を賠償と後処理に使う。
その後原発だけを切り離して原発専門の会社を設立しコレは世論の反応を見つつ発展か解散にもっていく。
他の発電所群はいくつかの会社に分割して利益を上げられるようにし、株式上場による将来の株式売却で国の買収に要した費用を賄う。
というような流れなら国民負担が少なく済む上に比較的自由に発電環境を変えられると思うのですが、どうでしょうか。
投稿: 素人考察 | 2011/06/12 21:13