action:倒産会社のような東電の仮処分答弁
東京電力は、既に倒産会社のようである。
asahi.com:東電賠償求め仮処分申請 双葉の社長「避難で事業休止」
福島第一原発の事故で避難指示を受け、事業の休止に追い込まれたなどとして、福島県双葉町の会社社長の男性(34)が東京電力に対して損害賠償金計4440万円の仮払いを求める仮処分を東京地裁に申し立てたことがわかった。東電側は14日、申し立ての却下を求める答弁書を出した。
一方、東電側は答弁書で「審査会の指針に基づく任意交渉と、和解の仲介で解決を図るのが基本方針で、個々の案件ごとに司法判断を受けて解決していく方法では補償実務に混乱をもたらし、公正・迅速な補償ができない」と主張した。
この個別的な権利実行手段に出たことには賛否がありうるが、その否定的な論拠として東電が挙げているのは、多数の債権者に対して一括した交渉の場で賠償を決めていくプロセスが進行しているから、個別の司法的権利行使は許されないということである。もう破産法の次の条文を思い浮かべるしかない。
(他の手続の失効等) 第42条 破産手続開始の決定があった場合には、破産財団に属する財産に対する強制執行、仮差押え、仮処分、一般の先取特権の実行又は企業担保権の実行で、破産債権若しくは財団債権に基づくもの又は破産債権若しくは財団債権を被担保債権とするものは、することができない。(2項以下略)
倒産処理手続では、まさしく東電が言うように、個々の案件毎の司法判断では清算・再建実務に混乱をもたらし、構成・迅速な弁済が出来ないので、集団的な債権確定手続を設け、まず届出させて、届出がないときは一定期間で失権させるとともに、争いがあればその後での訴訟手続に委ねている。
東電が、仮処分に対して上記のような反論をしているということは、既に、東電の賠償内容を決める「審査会」というのは私的倒産処理手続の域に達しているというわけである。
これはもちろん東電側の主観的な認識に過ぎず、法的には当然に通る話ではない。
審査会を設けたからといって、一切の個別的権利行使を禁止する法的効力が生じるとすれば、それは憲法29条の財産権侵害になる。破産法のように法律をもって債権回収手段を別に定めたならば、合憲だが、それでも裁判によって権利義務を決める手段を封じることはできない。少なくとも事後的に裁判による救済を認めなければ、憲法32条に違反することになる。
第29条 財産権は、これを侵してはならない。 2 財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。(3項略) 第32条 何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない。
東電のいわゆる審査会が、このように個別的権利行使をしてもらっては困るという性質のものだとすると、そして倒産処理手続のような強制的なものではないとすると、思い浮かぶのは「特定調停法」だ。
これは民事調停手続で、あくまで任意ベースで倒産処理を進めるもので、いわば私的整理を調停の場に乗せたような立法である。その中に、民事執行手続の停止を命じることができるという条文がある。
(民事執行手続の停止)
第七条 特定調停に係る事件の係属する裁判所は、事件を特定調停によって解決することが相当であると認める場合において、特定調停の成立を不能にし若しくは著しく困難にするおそれがあるとき、又は特定調停の円滑な進行を妨げるおそれがあるときは、申立てにより、特定調停が終了するまでの間、担保を立てさせて、又は立てさせないで、特定調停の目的となった権利に関する民事執行の手続の停止を命ずることができる。(但書以下略)
あくまで任意ベースの手続であっても、個別的権利行使をしてもらっては困るという場合に停止を命じることができるというものだから、今回の東電のケースでも、もし特別立法をもって審査会による債権確定を原則とするのであれば、こうした条文を入れることが考えられよう。
一つ付け加えると、今回の申立ては、仮払い仮処分であって、仮差押ではない。つまり個別的権利行使そのものではなく、賠償が得られるまでの手続期間中の生存を確保しようという目的のものだ。もちろん求める給付は将来確定される賠償金なのだが、求める理由は、東電に金がなくなるおそれがあるから仮に押さえるというのではなく、自分に金がなくなるおそれがあるから先に少し払ってもらおうというものなのだ。
既に他に仮払いを実施しようという話をしている東電としては、却下を求めるのではなく話し合いにより解決をすべきであろう。
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