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2011/03/29

principle:原発事故の賠償責任は受益者負担

原子力発電所の震災事故は、1週間海外出張している間に収束に向かうどころか、依然として予断を許さない状況のようだ。
その中で、原発事故の賠償責任をどうするのか、東電は負担しきれないのではないかということもちらほら話題となり、国が負担するとか、東電を国有化するというような話も出ているようである。

前提として、原発事故には民法の不法行為法の特則として、無過失責任を定めた法律が存在する。
原子力損害の賠償に関する法律

(無過失責任、責任の集中等)
第三条  原子炉の運転等の際、当該原子炉の運転等により原子力損害を与えたときは、当該原子炉の運転等に係る原子力事業者がその損害を賠償する責めに任ずる。ただし、その損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によつて生じたものであるときは、この限りでない。(2項略)

またこの賠償責任を全うさせるため、この法律は損害賠償引当金を積んでおく義務(6条以下)を定め、強制保険を定め(8条以下)、さらに政府による補償契約を定めている。

(原子力損害賠償補償契約)
第十条  原子力損害賠償補償契約(以下「補償契約」という。)は、原子力事業者の原子力損害の賠償の責任が発生した場合において、責任保険契約その他の原子力損害を賠償するための措置によつてはうめることができない原子力損害を原子力事業者が賠償することにより生ずる損失を政府が補償することを約し、原子力事業者が補償料を納付することを約する契約とする。

2  補償契約に関する事項は、別に法律で定める。

この10条2項に定められた法律が「原子力損害賠償補償契約に関する法律」である。

以上の措置、すなわち損害賠償措置(引当金)、責任保険、そして政府補償契約という3重の賠償確保によってもカバーできない場合には、政府が「援助」をすることになっている。

(国の措置)
第十六条  政府は、原子力損害が生じた場合において、原子力事業者(外国原子力船に係る原子力事業者を除く。)が第三条の規定により損害を賠償する責めに任ずべき額が賠償措置額をこえ、かつ、この法律の目的を達成するため必要があると認めるときは、原子力事業者に対し、原子力事業者が損害を賠償するために必要な援助を行なうものとする。
2  前項の援助は、国会の議決により政府に属させられた権限の範囲内において行なうものとする。

この16条により、一番安直なやり方としては政府が東電の賠償負担能力を超える部分について代わって補償をするということがあり、被害者救済の美名の名の下に実現しそうな雰囲気である。

それ以前に、3条の「異常に巨大な天災地変」によって生じたものとして東電を免責するということも考えられるが、それは不当な解釈である。
今回の地震と津波被害は確かに日本として観測史上初かもしれないが、世界規模でみれば戦後も何度もあった規模の地震にすぎず、巨大津波の脅威もタイ・プーケット島の惨劇は映像とともに記憶の新しいところである。原子力発電所がこの規模の震災・津波を想定していなかったのは、想定しなくても良かったからではなく、単に見込みが甘かった、すなわち予見義務・結果回避義務に違反していたに過ぎないというべきである。

そういうわけで東電の損害賠償責任が認められるとして、東電が払いきれなかったらどうなるか?
選択肢は3つある。

1.上記16条により政府が援助し、すなわち債務を肩代わりする。
 これは水俣病の原因企業であるチッソの例が思い出される。そして単純に債務を肩代わりするというのは、バブル崩壊後に農協や住専(に貸し込んだ金融機関)を救済するため、さらにその後の金融機関倒産で預金者を救済するため(預金者というと我々個人を思い浮かべるが、実は大企業が主たる救済対象であった)、公的資金というよく分からない名称でつぎ込まれてきた税金を、ここでもつぎ込むということである。

2.払いきれなくなれば、債務超過・支払不能として倒産処理手続に委ねる。
 東電が倒産しても、電力会社がなくなっては困るので、その事業を他の電力会社が引き継ぐか、あるいは東電自身が再建するしかない。玄葉大臣の国有化という発言は、あるいは金融機関の倒産スキームを念頭においた話かもしれないし、日本航空の倒産・会社更生もある意味では一時国有化による再建といえるかもしれない。
 いずれにしても、事業の再建には膨大な賠償債務を切り離して、きれいな体になって再建することが必要であり、切り離された債務は切り捨てられるか、あるいは政府が払うかである。
 倒産処理を経て、電力事業も継続し、被害者救済も実現するのであればバラ色だし、一応は現在の執行部の経営者責任も多少追及できる。しかしパラ色の背後には膨大な税金がつぎ込まれることは1と同様である。

3.原発事故の賠償責任は、原発電力の必要経費なのだから、その賠償額は電力料金から回収する。
 この考え方は、一見すると東電の焼け太りに見えるので、世論の反発はすさまじいものがありそうである。しかし、私はこれが本来のあり方だと思う。
 原発は低コストでクリーンエネルギーだというのが、これまでの売り文句であった。しかし今回の事故で原発は巨額の賠償責任を負担する可能性のある、そして環境にこの上なくひどいダメージを負わせる可能性のある存在であることが否定できなくなった。
 そんなことはスリーマイルの昔から実例とともに否定できなかったはずなのだが、原発は安全だと繰り返し繰り返しながされ続けるデマゴギーのおかげで、先月まではそのリスクやコストは無視してきたに等しい。
 しかし、フクシマはもう否定できない事実だ。そして東電の負う損害賠償責任は、その原発の潜在的コストが顕在化したものである。万一の事故で負う賠償責任などは度外視して、せいぜい法律が定める引当金や保険料・補償契約金額の限度でしかコスト計算していなかったのだろうが、原発にかかるコストは少なくとも今回のような事故について保険や補償契約でカバーできる程度の保険料・補償契約金額を考えるべきである。
 そして、従前の納付が不十分であったとすれば、つまり払いきれないとすれば、その分は将来そのコストを補填する必要がある。将来の原発コストに跳ね返るとすれば、それを負担するのは、原発によって生み出されるエネルギーの受益者、すなわち電力使用者にほかならない。要するに電気料金を値上げすることで、今回の事故の賠償責任も、また将来の事故の可能性を見据えた引当金・保険料・補償契約金額もカバーするべきである。

 国がやることはもう一つ、原発事故はまれにしか起こらない以上、原発を保有している国内各電力会社が万一の事故の際の賠償責任を分担するように、原賠法を改正することである。電力会社は地域独占なのだから真の意味で競争関係には立っておらず、そもそもが無過失責任なのだから、賠償責任の危険分散は電力会社間でも行うことで、より一層無駄の少ない引き当て制度となることだろう。

 あと一つ、原子力発電を今後廃止していくという方向性が考えがたい以上は、発生確率がいくら小さくても今回のような事故にかかる諸費用と、将来の廃炉費用、これは事故がなくても当然に発生する費用だし、さらには使用済み核燃料の中間処分・最終処分にかかる費用も、過少見積もりすることなく計算して、原発のコストに取り込むべきである。特に使用済み核燃料の無為無策先送りが今回のフクシマ事故の一因にもなっていたのだから、喫緊の課題だ。

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