arret:中間省略登記が請求されたとき、裁判所がすべきこと
中間省略登記の請求はダメだという。たとえ、第三者から被相続人に贈与され、相続したという経過だとしても、相続人が「直接」第三者に自己への移転登記を真正な登記名義回復のため求めることはできないという。
そのため、第三者に対してまず被相続人への移転登記をせよと請求し、その後相続を原因とする登記をすればよいとして、中間省略登記を求めた請求は棄却されるべきだという。
ところが、最高裁は、中間省略登記を求める請求の趣旨には、第三者に対してまず被相続人への移転登記をせよと請求する趣旨も含まれていると理解する余地があり、この点を釈明して、被相続人への移転登記請求の趣旨も予備的に含まれているということになったら、その線で判決すべきだったとした。
つまり、釈明義務違反である。
こんな釈明までしろというのかと、そんなややこしいことをするくらいなら、本件のような相続人による請求の場合は中間省略登記の方がずっと簡明で直截でよいではないかと、そう思うところである。
ところで授業でもよく言うことだが、ロースクール生は、釈明権の行使を、特に積極的釈明にわたる場合は違法とされる可能性があるということをしばしば言ってくる。どこかでそのように書いてあるのかもしれない。しかし、本件のような、中間省略登記を求める請求の趣旨を見て、いやいやこれには前主への移転登記を求める趣旨が含まれているかもしれないと考えて、そうなんじゃないのかという釈明までもが「義務」として課されているのである。
これとのバランスを考えてみても、釈明権の行使のしすぎが違法になることなどはほとんどないであろう。むしろ、当事者の法解釈が裁判所と食い違っていることが見ている場合に、とりわけ勝敗逆転の可能性があるときには、積極的に釈明権を行使して、「正しい裁判」を実現すべきだというのが基本的態度である。
| 固定リンク
「法律・裁判」カテゴリの記事
- Arret:欧州人権裁判所がフランスに対し、破毀院判事3名の利益相反で公正な裁判を受ける権利を侵害したと有責判決(2024.01.17)
- 民事裁判IT化:“ウェブ上でやり取り” 民事裁判デジタル化への取り組み公開(2023.11.09)
- BOOK:弁論の世紀〜古代ギリシアのもう一つの戦場(2023.02.11)
- court:裁判官弾劾裁判の傍聴(2023.02.10)
- Book:平成司法制度改革の研究:理論なき改革はいかに挫折したのか(2023.02.02)
コメント
この前の法的観点指摘義務といい
「新訴訟物理論」や学説の目指していた
裁判官の後見的関与を求める傾向が強くなっていますね。
こうやって他の法律の先生はついていけなくなるんだろうなぁ...
本件の場合はそもそも中間省略登記を認めてしまえばよかったような気もしますが、
第一譲渡に基づく移転登記請求ができる理由は第二の権利移転が相続人だからなんでしょうか?
第二譲渡も売買だった場合は、代理権を授与されていても(訴訟代理に該当するので)移転登記は請求できなくなってしまうのでしょうか?
何か中間省略登記にきなくさいものを感じてブレーキを用意しておきたかったんですかね?
投稿: 故元助手A.T. | 2010/12/17 09:11
数年前の不動産登記法改正により登記請求権理論もかわっています。実体法の考え方を反映している側面もあります。
投稿: madi | 2010/12/17 12:23
私も第一の移転登記を現所有者が求められる根拠はなんだろうと気になりました。
しかし相続人として被相続人の地位を継承しているからというのなら、むしろ直接自己へ、贈与契約の履行として移転登記を求められるように思うんですが。
madiさん、もう少し説明してくれないと分かりません。
投稿: 町村 | 2010/12/17 13:27
ものすごく大雑把な流れを述べておきます。
不動産登記法改正で原則として中間省略登記は認められなくなりました。移転の実体を登記原因に反映させなければならなくなったのです。また、債権者代位訴訟の転用場面については最高裁のおすみつきもできたので認めやすくなっています。
そこで実質的には中間省略登記を求める場合に第一譲り受け人の権利を債権者代位しておき、次に第一譲り受け人に対して所有権を請求することになります。
ところが第一譲り受け人から第二譲り受け人への移転が包括承継となるとそもそも代位することもないので、この手がききません。そのために最高裁が技巧的な構成をとったものとおもわれます。
投稿: madi | 2010/12/17 19:40
第1の所有権移転登記請求については、受贈者(被相続人)が贈与契約に伴って取得した登記手続請求権を、相続人が相続によって承継したという構成あたりが考えられるでしょうか。
ただ、これを詰めていくと、第2の所有権移転が売買などの特定承継であっても、その売買契約に第1の所有権移転についての登記手続請求権も随伴して移転させる合意が含まれるという構成が可能になりそうな気もしますが。
投稿: えだ | 2010/12/17 21:43
うーんと、むしろ逆で、第二の所有権移転は特定承継である以上、所有権移転登記請求権までもが承継するわけではなく、せいぜい債権者代位権により前主の登記請求権を行使できるということになりそうです。
これに対して相続人の場合は包括承継だから、登記請求権も承継するというのは当然なのかもしれません。
でもそれなら、相続人は自己へ移転登記を求めることになってもおかしくないと思うんですよ。
投稿: 町村 | 2010/12/17 23:12
なるほど。むしろ第二譲渡も契約に基づくほうが(民法的に)説明がしやすいということなんですね。
よくわかりました。ありがとうございます。
そういえば債権法改正で債権者代位の転用類型に批判的な意見が寄せられていたような記憶があったのですが
民法学者が中心ですので、当然、このあたりのことは目配せしているでしょうから
また変更があるのかもしれません(手元に資料がないので不知ですみません)。
それとは別に、こういう釈明義務(法的観点指摘義務)は
判例評釈なんかで
「原告の主張との関係でこういう結論がなされたが
別の法律校正であれば判断がブランクである」
式の論法をする人が結構いますが
今後は、常に釈明義務違反が無いことまで書かなくてはいけなくなるので民訴法以外の研究者も判例評釈やるなら一通りのことは学んでおかなくてはなりませんね...
投稿: 故元助手A.T. | 2010/12/18 02:52
Il semble que vous soyez un expert dans ce domaine, vos remarques sont tres interessantes, merci.
- Daniel
投稿: rachat de credit | 2010/12/28 19:33