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2010/11/03

jugement:根抵当権付き共有地の分割

色々な意味で教材にふさわしい事案の裁判例である。

京都地判平成22年3月31日(PDF判決全文

3人の兄弟が遺産である土地の共有物分割訴訟の原告・被告となった事例である。
長男夫婦の経営する会社が当該土地に建物を建てており、死亡した父親は長男に全部遺贈したが遺留分減殺請求を受けたため弟二人との共有になった。長男は妻にも少し贈与したので、共有者は4名である。
今回の訴えは、弟二人が原告となり、長男と妻に共有物分割請求訴訟を提起したというものである。

争点は二つ。
第一に、長男経営の会社が本件土地に根抵当権を設定しており、その被担保債権額を考慮すると、仮に本件土地を競売しても被担保債権に全部充当されてしまって兄弟たちには一円も残らない可能性が高く、そうなると競売手続が始まっても取り消されてしまう可能性がある。
そのような取り消されてしまう可能性のある競売手続を求める訴訟には、訴えの利益があるといえるか?

第二に、分割請求を認めるとしても、本件土地の価額は設定されている借地権価格を控除するほか、設定されている根抵当権の被担保債権額を控除すべきか? これを控除すれば、オーバーローンの本件土地の価額はゼロか、多少の潜在的価値しかなく、その潜在的価値に相当する金銭を被告が原告に支払う方法での共有物分割が認められるが、控除しなければ、被告には原告ら持分に相当する金銭を払う資力がないので、競売して金銭で分けるしかなくなる。

第一の争点は、形式的形成訴訟における訴えの利益として新たな論点を提起するものだ。

被告らの主張のように、民事執行法は無剰余となる競売を取り消すと定めている。

(剰余を生ずる見込みのない場合等の措置) 第63条  執行裁判所は、次の各号のいずれかに該当すると認めるときは、その旨を差押債権者(略)に通知しなければならない。  一  略  二  優先債権がある場合において、不動産の買受可能価額が手続費用及び優先債権の見込額の合計額に満たないとき。 2  差押債権者が、前項の規定による通知を受けた日から一週間以内に、優先債権がない場合にあつては手続費用の見込額を超える額、優先債権がある場合にあつては手続費用及び優先債権の見込額の合計額以上の額(以下この項において「申出額」という。)を定めて、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める申出及び保証の提供をしないときは、執行裁判所は、差押債権者の申立てに係る強制競売の手続を取り消さなければならない。ただし、差押債権者が、その期間内に、前項各号のいずれにも該当しないことを証明したとき、又は同項第二号に該当する場合であつて不動産の買受可能価額が手続費用の見込額を超える場合において、不動産の売却について優先債権を有する者(買受可能価額で自己の優先債権の全部の弁済を受けることができる見込みがある者を除く。)の同意を得たことを証明したときは、この限りでない。  一  差押債権者が不動産の買受人になることができる場合      申出額に達する買受けの申出がないときは、自ら申出額で不動産を買い受ける旨の申出及び申出額に相当する保証の提供  二  差押債権者が不動産の買受人になることができない場合      買受けの申出の額が申出額に達しないときは、申出額と買受けの申出の額との差額を負担する旨の申出及び申出額と買受可能価額との差額に相当する保証の提供 3  前項第二号の申出及び保証の提供があつた場合において、買受可能価額以上の額の買受けの申出がないときは、執行裁判所は、差押債権者の申立てに係る強制競売の手続を取り消さなければならない。

 しかし、この規定にもあるように根抵当権者の同意を得れば競売は取り消されない一方、すぐ競売しなければならないというものでもないので、将来土地が値上がりしたり、本件被告経営の会社が被担保債権を弁済したりすれば、競売は可能となる。そのような可能性があるので、訴えの利益がないとはいえないと、裁判所は判示した。
 ここには、移転登記請求の訴えの利益について、現在の登記名義人に対する抹消登記請求が民法94条2項に基づいて棄却された後でも失われないとした最高裁判決(最判昭和41年3月18日民集20-3-464pdf)と共通する考え方が指摘できよう。
 ただし、この最高裁判決は登記請求権の執行自体が不可能となることはないということを理由としており、無剰余取消が確実な場合に直ちに同様のことが言えるかどうかは、議論の余地がある。しかし最高裁自身が述べていることではないが、当該事案でも将来の移転登記の実行が可能となる場合がありうるので訴えの利益が認められるというのが学説の理解であり、その理解に立てば、本判決の場合も訴えの利益を認めるということになる。

第二の争点は、一見すると被担保債権額を控除して土地の価額を定めるのが当然に思えるが、よく考えて見れば、被担保債権を負担すべきは主債務者である会社で、その経営者たる被告らである。それを土地の価額から控除して分割すれば、原告らに被担保債権の負担を課すことになる。それは明らかに公平でない。
 被担保債権額を控除しない価額で原告らに競売の売得金を配当するとして、優先債権である根抵当権の被担保債権へ大半が吸収されてしまうのだが、その場合に配当額から減った部分は、いわば物上保証人が担保権を実行された場合と同様に、主債務者に求償することになる。

 ただし論理的には、被担保債権額を控除した価額で分割したとしても、原告らの取り分の減少分は被担保債権の債務者に請求できそうな気がするので、同じことかもしれないが。

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