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2010/10/24

news:田原総一朗に対する準文書提出命令

なかなか興味深い事例が進行中のようである。

asahi.com:田原総一朗氏に取材テープ提出命令 拉致被害者巡る発言

例によって曖昧な部分を補いつつ記事を読んでみると、以下のような事実関係らしい。

 まず、テレビ番組で北朝鮮拉致被害者が既に死亡していると発言した田原氏に、被害者家族が慰藉料請求訴訟を提起した。
 この訴えの中で田原氏は、「発言は取材に裏付けられたものだ」とし、08年11月の取材のやり取りを録音したテープの一部を文章化した書面を証拠として提出した。
 そこで家族側がそのもととなった録音テープの提出命令を申し立てた。
 これに対する裁判所の判断が以下の通り。

長井浩一裁判長は今月18日付の決定で、田原氏側がテープの内容を文書化して提出したことを踏まえ、「秘密保持の利益を放棄した」と判断。同氏側が取材源の秘匿を理由に提出を拒んだことに対しては、「幹部の特定につながる情報が録音されているとしても、田原氏が守秘義務を負う場合に当たるとはいえない」と退けた。

記事中からははっきりしないが、田原氏側にテープ自体の提出を命じる根拠規定は、この事件では二つないし三つが考えられる。

真っ先に思い浮かぶのが文書提出命令だが、その中でもいわゆる引用文書としての提出義務と、一般的提出義務である。

民訴法第220条  次に掲げる場合には、文書の所持者は、その提出を拒むことができない。 一 当事者が訴訟において引用した文書を自ら所持するとき。 (二・三略) 四  前三号に掲げる場合のほか、文書が次に掲げるもののいずれにも該当しないとき。 (イ・ロ略) ハ 第197条第1項第2号に規定する事実又は同項第3号に規定する事項で、黙秘の義務が免除されていないものが記載されている文書 ニ 専ら文書の所持者の利用に供するための文書(国又は地方公共団体が所持する文書にあっては、公務員が組織的に用いるものを除く。)

この220条1号に規定された自ら引用した文書の所持者の提出義務は、録音テープの一部の反訳を自らの立証のため提出した田原氏について、その全文データの提出をさせる義務として認められる。

*余談だが、相対立する当事者の一方が証拠の一部を切り取って自分の有利に援用したのであれば、その全部を吟味する必要があるというのが民事訴訟法の正義の観念である。自分の好きなように切り取った部分のみ裁判の証拠にしても良いというのは、現在のところ、取り調べ場面の録音録画でも証拠開示でも検察側に認められているのだが、それは相対立する当事者の一方という立場ではなく公益代表者として、ある種の公平中立性があると信頼される存在だからである。その信頼が崩れた今、検察の判断で証拠のどの部分を切り取るかを無条件で信頼する制度はもはや維持できない。

さて、220条4号は、一般的な提出義務を定めたものだが、その例外としてハが引用している197条1項3号は次のような規定である。

第197条  次に掲げる場合には、証人は、証言を拒むことができる。 (一・二略) 三  技術又は職業の秘密に関する事項について尋問を受ける場合

つまり、ジャーナリストの取材源の秘密や取材内容は、報道の自由、引いては国民の知る権利を支える基盤として秘匿特権が認められるべきだというわけで、この「職業の秘密」に当たるという見解が有力である。これに対して裁判所は、取材内容の中でも報道された内容には秘匿特権を認めないのが一般的だが、取材源については一応「職業の秘密」と認められる。
ただし、「職業の秘密」に該当するとしても、それを開示することによって職業の遂行が著しく阻害される程度に重大なものであることに加え、それが裁判で真実を明らかにする利益に勝るものでなければならない。他に証拠がなくて事実関係を明らかにするためにどうしても必要であれば、職業の秘密を開示することでの不都合も甘受すべきだという、利益衡量が行われる。

この件では、田原氏自身の職業の秘密に当たるとしても、それは自ら文書化した部分を提出したので、秘密を保護される利益を放棄したと判断されたようである。これが引用文書についていわれているのか、220条4号一般義務文書についていわれているのかははっきりしない。

また、上記記事の最後の部分で裁判所が「幹部の特定につながる情報が録音されているとしても、田原氏が守秘義務を負う場合に当たるとはいえない」と述べたと紹介されている部分は、民訴法197条1項2号の「職務上知り得た事実で黙秘すべきもの」ではないという判断のようにもみえる。
もっとも2号は、医師とか弁護士など、列挙された職業に関する守秘義務の尊重であり、そこに列挙されていない職業には適用がない。従ってジャーナリストの場合は、2号ではなく3号の職業の秘密として、守秘義務がある場合を保護するということになる。

そうなると、3号の職業の秘密として、さらに田原氏が守秘義務を負うかどうかが問題となり、裁判所はこれを否定したとのことである。ただし、結論だけ示されているので、どのような論理かは明らかでない。田原氏が取材源について守秘義務を負うとすれば、取材対象に対してか、それとも田原氏の報道に責任を負う報道機関に対してか、いずれかであろう。
その上、守秘義務自体がないというのか、守秘義務は一応認められてもその秘密を守ることに利益を持つ側(例えば報道機関)にとって、秘密として保護される場合にはあたらないというのか、いずれかの可能性がある。

このように、文書提出命令の成否という点では、複雑な判断がなされたものであろう。

もう一つの可能性として、民訴規則144条に以下のような規定がある。

(録音テープ等の反訳文書の書証の申出があった場合の取扱い) 第144条 録音テープ等を反訳した文書を提出して書証の申出をした当事者は、相手方がその録音テープ等の複製物の交付を求めたときは、相手方にこれを交付しなければならない。

この規定に基づく提出義務は、民訴法上の提出命令と異なり、証拠調べの一環としての指揮命令の一部であり、これに違反しても事実上のサンクション、すなわち不利な心証が形成されるというにとどまるかもしれない。あるいは民訴法229条で準用される民訴法224条の不利益、すなわち真実擬制の適用はあるのかもしれない。
ただ、いずれにせよ、明らかにしたい情報が分からないから提出を求める場合には、提出請求者の主張を真実と認めるといっても、その具体的な内容が明らかにでないのだから、サンクションとしては限界がある。

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