lawyer:事務所を追い出されていく若手弁護士
ちょっと前からTwitterで話題となり、ボ2ネタでも取り上げられていた週刊現代の記事だが、せっかく買ったのだから、感想を記しておこう。
司法エリートたちの野望と現実という短期連載の最終回らしいが、大見出しが示すように、大きな事務所に入ったエリート弁護士が使い捨てにされているという現象を伝えている。
ちなみに、大型の法律事務所というのが日本に登場したのはここ10年ばかりのことであり、それ以前は100人を超える弁護士事務所というのは存在しなかった。左翼系の合同事務所というのが割合人数を多くかかえる傾向があったが、それでも20〜30人も弁護士がいれば極めて大きい方であった。
(ひょっとすると例外的に100人越えなんて事務所もあったのかもしれないが・・・。)
それが、法曹養成制度の改革により司法試験合格者数が増大したのと、渉外法律事務(要するに外国企業と日本企業との取引・契約交渉、まれに紛争処理)が弁護士に求められるようになったこと、さらにはM&A関係の法律事務や株主総会関係の法律事務、会社の倒産処理業務など、会社法業務が増大した。これらは、多人数の弁護士が分担して仕事をするスタイルを要し、訴訟代理人のように個々の弁護士が一人ないし少数で追行する伝統的な法律事務とは異なっていた。そこで、その多人数型の法律事務に対応を迫られる形で大事務所が人数を増やし、合併を繰り返して巨大化したのである。
この辺りは、巨大ローファームとして名高い森・濱田松本法律事務所の事務所概要ページにある沿革とか、西村あさひ法律事務所の概要ページとかを眺めてみると、おぼろげながら浮かび上がって来るであろう。
そうした事務所の仕事はビジネスに伴う法的業務が中心であり、訴訟、それも国内における訴訟がしめる割合は比較的少ない。またビジネスに伴って訴訟にまで至るのは例外現象であり、それなりに法的な解釈が難しかったり、企業の命運をかけたような引くに引けない案件だったりで、巨大事務所の中でそういう案件を担当する弁護士は限られてくる。
従って巨大ローファームに就職した弁護士たちの仕事は、一人ないし少人数の法律事務所にイソ弁として就職した弁護士の仕事とは相当に異なり、同じ法律事務でも紛争解決の手続や法の活用を行ったりするよりも、紛争予防的な側面が強くなる。
このような状況で、もともとジェネラリストだった弁護士が、より専門性の高いスペシャリストになっていく大きな流れがある。しかし、スペシャリストとしての道を究めるのは、必然的に少数である。巨大ローファームにアソシエイトとして入った弁護士がパートナーになれるのは、当然、一部にすぎない。残る大部分の弁護士は、その事務所以外の場で自分の能力を活かすことを考えなければならず、それが企業法務や渉外業務である保障はない。
そういうわけで、若手使い捨てに焦点を当てれば、随分ひどい話に見えるが、そのような情景はアメリカでもヨーロッパでも見られたことだ。その欧米に対抗するために法曹人口を拡大しようとしているわけだから、予定された現実の一部ともいえる。
なお、週刊現代の記事中には、小山啓介(仮名)という人が出てきて、倒産系の弁護士事務所に就職したが、安月給の上まともな仕事をさせてもらえず、半年ももたずに辞めたときには何でもっと早く辞めなかったのかと責められたというエピソードも語られている。記事では随分理不尽な扱いを受けたように書かれているが、ボス弁からみれば、期待して雇ったのに掃除やシャッターの開け閉めぐらいしか満足にできなかったということなのであろう。
その例はちょっと極端で、しかも巨大事務所のアソシエイト使い捨て物語とは全く異なる文脈の話だし、もし実話なのだとすれば当事者のルサンチマンが真相を見えなくしている嫌いもある。むしろ、一人事務所のボス弁と相性が合わずに早期に辞めたという話は司法制度改革以前からあったことで、司法制度改革の負の側面とはほとんど関係のない話である。
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