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2010/10/15

jugement:パイプカットで避妊したのに妊娠した事件

仙台地判平成22年9月30日PDF判決全文

夫がパイプカット(精管結さく)手術を受けたが、その後に妻が妊娠したので、夫婦それぞれが手術した医師に損害賠償を求めた事案である。
債務不履行または不法行為に基づく損害賠償を請求したのだが、被告医師側は以下のような本案前の抗弁を出している。

本件における診療契約(以下「本件診療契約」という。)の内容は,原告Aが精管結さつ術を受けるというものであるから,契約主体は原告Aであり,本件手術について原告Bの同意が要件とされていたとしても,これは,その手術の特殊性から,夫婦間での同意があることが望ましいとの配慮によるものにすぎない。
したがって,原告Bには,本件訴訟について,原告適格若しくは訴えの利益がないというべきである。

要するに避妊手術は夫との間の契約で行ったのだから、その失敗に起因する法的紛争に妻は部外者で、妻が賠償を求める地位には立たないのに訴訟を提起するのは不適法だという主張である。

このような本案前の抗弁を出す被告側は、ひょっとして本人訴訟ではないのかと思われるが、代理人弁護士がいたとすれば結構なレベルだ。裁判所も、本案前の争点としてはほとんど一言の元に切り捨てている。

が、それはそれとして、夫の避妊手術失敗に妻がどのような利害関係を持つか、法的保護に値するような地位があるのかということは、本案の問題として興味深い。

そしてこの判決は、夫が診療契約の当事者であると認めつつも、避妊手術は夫婦のQOLに深く関係することであることから、「当該手術を実施するか否か,また,それが適切に実施されるか否かについては,実際に施術を受ける男性のみならず,その手術に対する同意を通じて関与が認められた配偶者(届出をしていないが,事実上婚姻関係と同様な事情にある者を含む。以下同じ。)も法的保護に値する利益を有する」と判示した。
そこから、夫の締結した診療契約は、妻が説明を求めたり適切な手術実施を求めたりする法的地位を妻に付与する「第三者のための契約」を包含しているとしている。
こうした性質決定は興味深い。

さて、具体的な問題解決については、医師の債務不履行責任を、妊娠のリスクを具体的に説明しなかったという点、とりわけ妊娠が発覚した後に本件手術によって夫の子である可能性は99.9%ないと言った点などから認めたものの、既に支払った300万円余りで、夫婦それぞれに対する慰藉料は填補されているということで、請求棄却となった。

なお、上記のような経緯で夫は妻の不貞を疑うという事態になり、夫は妻を20回も殴打するなどのDV状況になったのだが、その責任は医師にはない(因果関係がない)と判断されている。この判断には大いに疑問を感じるのだが、どんなものであろうか?

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