JALの整理退職、公正にやらないと国鉄の二の舞
もういつか来た道としかいいようがない光景が報じられている。
ASAHI.COM:日航CAにもリストラ包囲網 「残っても仕事はないよ」
・・・会社から「残っても仕事はない。何をするつもり?」「整理解雇になったら、高齢のあなたは一番に対象になる」「お客様が、年齢が高い人にサービスを受けたいと思いますか?」と言われた・・・
労組「日本航空キャビンクルーユニオン」(CCU、856人)は、「会社による組合差別が背景にある」と訴える。日航が退職目標に足りないとしている客室乗務員は140人。これは、会社側と対立してきたCCUに所属する50歳以上の組合員数とほぼ一致する。会社寄りの組合では、50歳以上は管理職になっており、対象者はほとんどいないのと対照的だ。
山崎豊子の『沈まぬ太陽』を彷彿とさせるが、倒産処理のどさくさに紛れて労組差別が入り込むのは、よくあることで、最も露骨で大っぴらで大規模に行われた労組差別が、国鉄からJRに民営化したときである。
累積赤字でにっちもさっちもいかなくなった国鉄を民営化したのは、倒産処理の一種といってよい。従ってその当時に新会社へ採用するかどうかは、国鉄職員にとっては整理解雇と同等である。
その整理解雇は、公平な基準に基づかなければならないが、再雇用の基準に半ば公然と国労組合員は採用せず人材活用センターで飼い殺しにするということが語られていた。
当然ながら不当労働行為であることは明白で、労働委員会でも争われたところだが、労働法的正義と国策とがぶつかった結果、長い法廷闘争を経て高裁段階で採用差別に基づく賠償が認められたのが昨年(東京高判平成21年3月25日・PDF判決全文)、最終的な解決を見たのは今年になってからである。歴史上の出来事の関係者がまだご存命だったというような驚きを、多くの人が感じたことだろうが、関係者にとっては何十年もの戦いの末の決着である。
そういう事例を目の当たりにしているのに、上記の報道に現れた現在のJALのやり方は、今後数十年の紛争を抱え込んで倒産処理後のリニューアル会社に余計な荷物を背負わせることが危惧されるのだ。
おそらく、大きな組織でリストラの具体的人選は現場が行い、その人選を行う人が組合員ないし元組合員の管理職だったりするから、管理職になれる組合はリストラ対象にならず管理職になれない組合の組合員がリストラ対象になるという構造なのではなかろうか。そうだとすれば、管財人・経営陣は組合差別の意図を指摘されてもひていすることだろう。
しかし、公正な基準による整理解雇や退職勧奨を行うのは管財人・経営陣の責務であるから、不公正な解雇を実施した責任はトップが負わなければならないのである。
ということで、今後何十年もの紛争を回避することができるのは、今しかない。
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コメント
私は、国鉄改革時、中学生でした。
今は、北海道に住んでいますが当時は、鎌倉市民。
毎朝、労組関係者が駅前でビラ配りなどをしていたことを
思い出します。
その問題が一応解決したのが最近と言うことに、問題の
根深さを感じます。
なお、細かい点で申し訳ありませんが
>最終的な解決を見たのは昨年になってからである。
解決に動き出したのが2月頃、政府が和解受け入れを決定
したのが4月上旬、裁判上の和解は6月28日と
新聞では報道されていました。
投稿: はる | 2010/10/28 09:05
はるさん、コメント有り難うございます。
昨年というのは不正確でしたね。私の頭にあったのは、
東京高判平成21年3月25日で、不当労働行為を認めて慰藉料の賠償を命じたケースでした。
これが一つのきっかけとなって、和解の針が進んだのだと理解しています。
ちょっと記述を修正します。
投稿: 町村 | 2010/10/28 12:37
国鉄民営化で解雇になった方が2名受け入れて職場へやってこられました。やはり「優秀」方々で、直に役職「主査」へ昇格されましたね。私のように、高校卒で入社した下積みのぺいぺいには、とてもかないませんでした。
投稿: はとぅねミクる | 2010/11/18 11:07