arret:釈明義務違反新判例
判決文を見てびっくり、愛知学泉大学の教授が定年退職を通告されたところ、この先生は以前に理事から「定年規定は65歳だが、実質はなきに等しく、実際は80歳くらいまで勤務が可能だ」との説明を受けて、それを真に受けていたので、地位確認の訴えを提起したというのである。
原審は、上記のような説明を受けていたことや、実際にも70歳くらいで定年となるような運用が行われていたのであるから、そのような期待を元に生活設計をするのが通常であり、にもかかわらず定年規定に従って退職させるためには、退職1年前に告知しておくことが信義則上必要だと判示し、地位確認は棄却したが未払賃金請求は認容した。
これに対して最高裁は、定年規定による定年退職の効果を主張することが信義則違反となるという点が争点として現れておらず、一審以来の争点が上記の80歳まで勤務するという旨の合意があったかどうかに集中していたのであるから、突然信義則違反を理由に請求を認容するのは釈明義務違反だと判示した。
本事件の特質は、信義則を梃子とした新たな法律構成により賃金請求を認容するというもので、この法律構成を予想することが当事者には困難だという点にある。
すなわち、当然当事者が主張立証すべき事実や証拠の提出や、当然考えられる法律構成を主張していないという場合ではなく、新たな法的観点を裁判所が解釈として採用するという事件であった。そのような場合に、新たな法的観点・法律構成を当事者にメンションし、その観点の元で問題となる要件について両当事者に主張立証の機会を与えるべきだというにある。
こうした考え方は、一橋大学の山本和彦教授が提唱する法的観点教示義務の観念に影響を受けているものと思われる。
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コメント
お、お、お、、、
ちゃんと精査して射程を限定しなくちゃいけないのかもしれませんが
ずいぶん思い切った判決を出しましたね
学部の授業を思い出しました
投稿: 故元助手A.T. | 2010/10/15 16:49
そうですね、歯車が回った感はあります。
投稿: 町村 | 2010/10/15 23:18