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2010/10/15

arret:停止条件か不確定停止期限か

民法入門の教材に格好の判決である。

最判平成22年10月14日PDF判決全文

単純化していうと、注文者から数次の請負人を通じて孫請負人に仕事が発注された際、下請けと孫請けとの契約では「下請けが元請けから請負代金の支払いを受けた後に孫請けに支払う」という支払リンク条項をおいていた。
ところが、元請けが破産してしまって、下請けに請負代金が支払われなかった。この場合、下請けは上記の支払リンク条項をタテにして、孫請けに請け負い代金を支払わなくても良いか?

もし支払リンク条項が停止条件だとすれば、条件が成就していないのだから、支払義務は発生しない。これに対して支払リンク条項が停止期限だとすれば、下請けの請負代金受領があるかどうかがはっきり下時点で期限到来となり、支払義務は発生する。いずれと解すべきか。

原審は、停止条件と解し、請負代金支払い請求を棄却した。
ところが最高裁は、停止条件と解することが当事者の合理的意思と認めることができないとして、停止期限であると解したのである。

一般に,下請負人が,自らは現実に仕事を完成させ,引渡しを完了したにもかかわらず,自らに対する注文者である請負人が注文者から請負代金の支払を受けられない場合には,自らも請負代金の支払が受けられないなどという合意をすることは,通常は想定し難いものというほかはない。 (中略) したがって,上告人と被上告人とが,本件請負契約の締結に際して,本件入金リンク条項のある注文書と請書とを取り交わし,被上告人が本件機器の製造等に係る請負代金の支払を受けた後に上告人に対して本件代金を支払う旨を合意したとしても,有償双務契約である本件請負契約の性質に即して,当事者の意思を合理的に解釈すれば,本件代金の支払につき,被上告人が上記支払を受けることを停止条件とする旨を定めたものとはいえず,本件請負契約においては,被上告人が上記請負代金の支払を受けたときは,その時点で本件代金の支払期限が到来すること,また,被上告人が上記支払を受ける見込みがなくなったときは,その時点で本件代金の支払期限が到来することが合意されたものと解するのが相当である

民法入門では、よく出世払いの約束が例として出されるのと一緒である。すなわち、出世払いというのが「出世したときは支払う」という停止条件付債務だとすれば、出世できなければ支払わなくてよいということになる。これに対して「出世できるかできないかがはっきりした時点支払う」という未確定期限付き債務だとすれば、大人となって先行きが見えた時点で支払わなければならない。出世払いの約束というのは、後者と解するのが普通だという説明を受け、学生は軽いカルチャーショックを受けるのである。

本判決の事例では、元請けから直接孫請けに発注すればよかったのに、元請け・孫請けとも入札に参加したという経緯から、その入札参加者を孫請けにするのが具合が悪いということで、間に下請けを関与させた。そして下請けには迷惑をかけないとして支払リンク条項を付けたのである。
従って、関与させられた下請けは名前を貸しただけという意思とも考えられるし、そのことは孫請けも承知していたと考えられる。
最高裁は、そのような事実認定を前提としながらも、有償双務契約の合理的意思解釈として、孫請けが請負代金を受けられなくてもよいということを承諾していたとは考えられないとして、停止期限だと解したわけで、当事者の実際の意思とは異なる「合理的意思」を認めたという側面は否定できないであろう。

この事件は、このような意思解釈を通じた事案の妥当な解決の追及という面のみならず、請負の連鎖の中で元請けが倒産した場合に、その焦げ付きリスクを誰が負担するかという問題としても注目できる。名前だけのつもりにせよ本件下請人を関与させることで、孫請けとしては一種の担保を得たということになる。下請人が、手形でいえば信用付与のために介在した裏書人のような機能を持ったということである。
仮に本件で倒産したのが元請人ではなく下請人だったとすると、管財人は抵抗するであろうが、下請人は名前だけの介在であって元請けと孫請けとのダイレクトの契約が成立してると解する余地もないわけではない。民法94条2項から管財人に対抗できるかという問題はあるものの、実質的な契約関係はそうである。他方、本件のように元請人が倒産した場合は、下請人が本来の債務として請負代金を負担するので、孫請人としてはいずれにしても債権を回収できる。

逆にいうと、支払リンク条項を設定しても中間の請負人はリスクを回避することができないので、今後の契約実務に与える影響は大きいのではなかろうか。

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