arret:抽象的法令解釈権か傍論か
なかなか味わい深いが、最高裁は具体的事案の解決と関係のないところで法令の解釈に関する見解を示す、抽象的法令解釈権限があると主張しているようだ。
事案自体もなかなか味わい深い。
アメリカで単独監護者の指定を受けた父親が、日本の母親らの下で養育されている子どもの人身保護請求を出したという事案で、原審は請求に理由のないことが明白なときだとした却下決定をした。
これは違憲だといって特別抗告したのが本件だが、最高裁は違憲の主張は単なる法令解釈の誤りを主張するものだとしつつ、その法令解釈については原審が間違っていると指摘した。
「本件は,子の父親である抗告人が子を拘束している母親及びその両親である相手方らに対して人身保護法に基づき子の引渡し等を求める事案であるところ,抗告人は,アメリカ合衆国ウィスコンシン州ミルウォーキー郡巡回裁判所の確定判決により子の単独監護権者に指定され,原決定によれば,上記確定判決は民訴法118条各号所定の外国判決の承認の要件を満たしているというのであって,その他の当事者の主張内容等に照らしても,被拘束者を請求者の監護の下に置くことが拘束者の監護の下に置くことに比べて子の幸福の観点から著しく不当なものであることが一見して明らかであるとすることはできない。(中略)そうであれば,原審は,本件請求につき,決定によりこれを棄却するのではなく,審問手続を経た上で,判決により,その判断を示すべきであったといわざるを得ない。」
だが特別抗告は退けられている。
最高裁は、最後に次のように述べている。
「上級審においてこれを是正するのではなく,改めて請求がされたときにこれを審理する裁判所において審問手続を経た判断が行われることが,法の予定するところである。」
要するにもう一回訴えてこいというわけである。
そしたらまともに審問手続もしてあげようと。
しかし、最高裁のこの「傍論」には法的効力はない。次に同じ請求がなされたときに、下級審が同じように却下決定を下しても、それは違法でない。そして再度特別抗告されたも、最高裁の今回の立場からすれば、救済は与えられないということになる。
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