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2010/07/13

election:選挙区の定数格差を是正した試算

今回の参院選で選挙区選挙の部分については、いわゆる一票の価値が5倍を超えていた。
そこで、純粋に得票数に基づいて当落を決めたらどうなるかを試算したサイトが現れた。マイミクさんが紹介していたので、見に行った。

つぶやきかさこ:参議院一票の格差

それによると、

選挙区の得票数ランキングを並び替え、 上位73人を当選させるとこうなります。

民主46、自民40、みんな16、公明9、共産6、社民2、改革1、たち日1

増減の内訳は、
民主+2、自民-11、みんな+6、共産3
という結果に。

上記サイトには、各候補者を得票数で並べた表があり、これを眺めているとなかなか感慨深い。
上記サイトのブログ主が嫌いな千葉景子が落選者ではトップの得票数を記録しており、大阪の岡部まり、東京の小池晃、千葉の道あゆみといった首都圏候補のみならず、北海道の藤川雅司とかも当選圏内に入る。
中曽根だの宮沢だの田中だの岸だのといった、元首相ですかという名前の面々と同等かそれ以上にランクされるわけだ。

まあしかし、一人区は一般的に一票の価値が高いところであるから、一人区で大勝した自民党が得をしているのはある意味で当然である。
逆に前回の参院選では民主党が一人区大勝だったわけだから、同様の試算をしたら民主党が勝ち過ぎになったに違いない。
ということは、選挙区選挙の仕組みには国民の選好を増幅して結果に反映するという機能があるわけで、これはこれで一票の価値の平等とは別の制度的価値があるといえなくもない。

一票の価値を等しくすることは確かに重要な価値なのだが、選挙制度にはそれ以外の目的に基づく仕組み作りもある。
例えばアメリカの上院の場合、連邦国家として州を代表するのが議員であるから、州ごとの面積とか人口とかの格差は無視される。そのような世界では、そもそも一票の価値を云々すること自体がおかしいとされる。反面、下院は人口比例で定数を割り当てて小選挙区にするわけで、一票の価値はもっとも重要な価値である。

日本の上院たる参議院は、よって立つ独自の制度理念が明確ではなく、なんとなく都道府県代表と全国代表から構成されるという制度になっているが、各都道府県一人づつという徹底した代表概念を取っているわけではない。だから最高裁も極端な格差がある場合は憲法14条違反になるというが、衆院と同じ基準では考えない。
制度理念が曖昧なことを前提に具体的な制度の法的解釈をすれば、こういうことにならざるを得ず、その中で一つの制度理念なり価値なりを尊重すべきだと考える立場からは常に批判されるという構造になっている。

上記サイトのブログ主のように一票の価値を平等にすることが最優先の目的だとしつつ、選挙区選挙の仕組みを維持しようと思えば、県境を超えた選挙区を考えざるを得ず、地域代表的側面は今以上に後退する。それなら、例えば東京都世田谷区を10くらいに分割して、人口の少ない県と同じ選挙区にするという改革でもありうる話になる。島根と広島とを同じ選挙区にするのと、東京都世田谷区の一部と島根とを同じ選挙区にするというのでは、程度の違いでしかなく、投票価値の平等のためには小さな問題だということになるかもしれない。それを不適切だというなら、結局地域代表的な側面は否定し切れないということになり、議論からは逃れられないだろう。

あるいは選挙区選挙を否定して全国区一つにする、いわゆる大選挙区制度を取るか。それはそれで一貫した立場なのだが、国レベルの選挙で大選挙区を採用しているところが少ないのは、投票価値の平等を歪めてでも採用すべき価値の存在を認めているからだ。
結局人口密度の低いところの政治的意思の反映は、全国区制度になれば、可能性が乏しくなる一方であろうと思われる。それでよいかというと、都市住民であっても、それでよいとは割り切れないのである。

そうはいっても上記サイトのような表を見させられると、格差は限度を超えていると思わざるをえないのだが。

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経済・政治・国際」カテゴリの記事

コメント

アメリカの上院みたいに、連邦国家としての性格から1州=2人と憲法で明記しているのと、日本の参議院みたいに、「各都道府県としてのまとまり」という憲法に規定のない(国会の裁量としての一考慮要素になるとしても、それが過大視されてないか検討されるべきでしょう)原理に従って差が設けれらているのとを並べて論じること自体、不合理だと思いますけどね。

ところで、千葉景子議員って右からも左からも嫌われ放題ですね。死刑執行しないから嫌いとか、夫婦別姓を実現してくれないから嫌いとか、もう1億総嫌われ状態。

投稿: 憲法+判例 | 2010/07/13 12:01

 「日本の選挙」(加藤 秀治郎)によると、選挙制度論は19世紀イギリスにおけるミルやバジョットの議論でほとんど尽くされているのであり、日本でも、戦前に、美濃部達吉や吉野作造が高度な議論をしているのに、それをふまえず、素人議論をしている点がおかしいといいます。
 第二院がいかにあるべきかという話も、18世紀のシエイエスがすでに結論を出してしまっている(一致すれば無用、不一致なら有害)感があります。

投稿: 井上 晃宏 | 2010/07/13 12:27

いやいや、現実の選挙制度に関しては、議論は尽くされていないでしょう。様々な利害、というか価値観が対立していますから。普遍的な原理を見いだすことなど不可能です。時代と国の特性を考慮した議論が永久に続くでしょう。

第2院無用論だって、単純化を極端まで推し進めたらそうなるというだけで、圧倒的な影響力が有るわけではありません。

死刑執行については、単純に死刑を殺人と見て嫌悪するなら手段はどうでもよいということになるでしょうが、法的には法務大臣の恣意的な一存で事実上停止するというのは受け入れがたいです。
死刑廃止論の立場からしても、本当に死刑を廃止する方向に踏み出すなら、死刑の廃止の是非を議論する間、執行停止するための特別措置法などをまず出すのが筋で、それをしないで個人の一存で事実上停止というのは、かえって廃止論に対する反対を強くする結果しか生まないでしょう。
自分が永久に法務大臣にいるつもりならばともかく、他の人に交代することを考慮するなら、後は好きにやってという無責任な態度です。死刑囚個人に対しても、かえって残酷な処遇ともいえるでしょう。

投稿: 町村 | 2010/07/13 16:26

今の世論+議員の構成からして、特措法通すことが現実的か問題ではありますよね。結局大臣というのは、在任中必ず1人は死刑執行すべきことになっちゃうんでしょうか。
(そういえば、大臣が死刑を執行しないことが違法かについては、刑事訴訟法475条2項は訓示規定だとする裁判例(東京地判平10・3・20判タ983号222頁)があるし、特に法的な問題はないのでしょうね。まあ仮に執行しないことが違法だとして、どう国に強制するのやら。)

定数不均衡?確か民主党って、昨年の段階で衆議院の定数不均衡について違憲判決が出たにも関わらず、調整が困難と言って参議院の議員定数配分の是正をしなかったんじゃありませんでしたっけ…?間違ってたらすみません。

投稿: 続けて | 2010/07/13 18:25

つびやき某氏の分析は、構造改革派が民主党の分配政治に
対してノーを突きつけたというプロパガンダがただの
我田引水に過ぎないことを嫌という程浮き彫りにしてますね。
まあ彼は単なるリストラ屋だから仕方ありませんが。

一方で民主党の甘ちゃん執行部は与党が消費税アップを言う
インパクトが野党のソレと全く違うことが分からないのだから
どうしようもないですね。年度末までのとりまとめを断念
したということは、次の(おそらく)ダブル選挙までに
消費税アップが実務的に間に合いませんから、次の選挙では
再び消費税を上げない公約を唱えた方が勝つことになるでしょう。

投稿: passenger | 2010/07/13 18:40

 町村さん、第二院の存在理由がはっきりしない以上、廃止はやむをえないのではないでしょうか。
 かの政治学者は、第二院の積極的役割を「再考を促す」「決定を遅らせる」と総括しています。、重要事項決定については三分の二の特別過半数を必須としたり、一定期間後の再議決を必須とするなどをすれば、議会は一つでも足りると思われます。

投稿: 井上 晃宏 | 2010/07/18 13:52

憲法の立法論として廃止するという選択はありだろうと思いますが、大統領制や首相公選制など、下院議会の選挙で示された民意とは異なる日時…方法で選出された権力が存在する制度はそれなりのメリットがあると思ってます。
それは分立した権力がチェック&バランスすることで、上院と下院とが存在するのもそれと同じメリットがあります。

ただし、政治的妥協を図れない未成熟な政治家しか選出できないのであれば、チェック&バランスはデッドロックに乗り上げ、ことあるごとに軍隊による局面打開が必要になるとか、君主が一括するとか、スーパーパワーが必要ですけど、日本はそんな未成熟な国ではないと思いたいです。

投稿: 町村 | 2010/07/19 17:55

今の議員定数は、単純に人口比で算出しているので、個人的には、これでは本当の議員定数格差解消につながらないのではと危惧しております。
それでは、どうしたらよいかと考えましたところ、人口比ではなく、前回選挙実績から、各都道府県別有効投票数から算出したほうがよいのではとなりました。
前回選挙実績はエクセルベースのソフトウエアでも簡単に算出できるはずです。
現在の選挙では人口の多い都府県が投票率が低く、人口の少ない県が高い傾向にあるので、有効投票数から算出したほうが不公平感が少ないのではないかと思います。

投稿: 議員定数 | 2011/07/29 15:43

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