cour:やっぱり必要、はやとくん
裁判では、聴覚障害者にどのようにして情報を伝えるかが問題となる。手話は誰でも使えるわけではない。
そんな時に、ボ2ネタで紹介されていた次の記事は注目に価する。
毎日jp:年金不支給取り消し訴訟:聴覚障害者原告尋問 スクリーンに文字映す--地裁 /兵庫
この日の弁論は、原告側弁護人が事前にスクリーン使用を地裁に申請。民間の元速記官が原告への質問をパソコンに入力し、約1メートル四方のスクリーンに字幕を投射。原告はこの文字を読みながら質問に口頭で答えた。
ここで用いられたのは、裁判所速記官の間でボランティアベースで導入が進んでいる速記入力システム「はやとくん」だと思われる。→電子速記研究会のHP
速記には、速記用のタイプライターが用いられるが、その入力を電子的に記録し、自動反訳するのがはやとくんである。出力は普通のデジタル文字データなので、記録するのみならず、即時的にスクリーンに投影することも容易である。
このシステムはアメリカでは普及しており、コートリポーターのためのなくてはならないシステムとなっているが、我が国では事情が異なる。
我が国では、最高裁が速記官養成を中止してしまい、いずれ裁判所の尋問記録を速記するという実務は廃止されることになっている。その代わり、音声を録音し、必要に応じて外部業者に反訳を依頼するというのである。
そのほうが安いというのと、速記は長時間継続して行うことが出来ず、速記官が多数必要だということ、それがボトルネックとなって裁判が遅れるというところが最高裁の方針の理由であろうが、反訳プロセスが電子化されれば、速記だってコストは下がるし、労働条件の制約は色々と工夫の余地がある。
速記+電子反訳による即時的な文字コミュニケーションが必要な場面は、障害者が当事者の場合の当事者尋問のみならず、裁判員に障害者が含まれている場合もある。そのような場面に備えて、速記官の養成は是非とも再開すべきだし、裁判所として正式に電子反訳システムを導入すべきなのである。
上記記事でも「元速記官」が登場しているが、必要な場面で裁判所のシステムが対応できないのは、速記官養成をやめてしまったツケが端的に現れたというわけである。
この件に関する過去エントリも、ご参照。
| 固定リンク
「法律・裁判」カテゴリの記事
- Arret:欧州人権裁判所がフランスに対し、破毀院判事3名の利益相反で公正な裁判を受ける権利を侵害したと有責判決(2024.01.17)
- 民事裁判IT化:“ウェブ上でやり取り” 民事裁判デジタル化への取り組み公開(2023.11.09)
- BOOK:弁論の世紀〜古代ギリシアのもう一つの戦場(2023.02.11)
- court:裁判官弾劾裁判の傍聴(2023.02.10)
- Book:平成司法制度改革の研究:理論なき改革はいかに挫折したのか(2023.02.02)
コメント