ADR:離婚調停中の子供連れ去り=誘拐
こういう事件はよくあるのだろうと思うが、誘拐になることに疑いもない。
夜10時頃、妻が、寝ていた5歳の長女を車の中に残して自宅に荷物を置きに行って、車に戻ったところ、子どもがいなくなっていたので警察に110番したという。
翌日未明の午前4時40分、ホテルにいた夫とその母親が未成年者略取容疑で逮捕された。
離婚調停中の出来事である。
この種の子供取り合い事件は、少なくとも現在監護している親が離婚後の親権・監護権取得に有利であるので、止むに止まれぬ思いでやってしまうことがあるだろう。
しかし、違法に子供を連れ去った事実は、親権監護権の帰趨に決定的に不利な事情となるので、有害無益である。
言ってみれば、食べるカネがないから止むに止まれぬ気持ちで強盗してしまうのと同様。
当事者は「じゃあどうすればいいのだ」というだろうが。
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コメント
「現行犯逮捕」についてはどうですか。事件が起きたのが夜10時5分で、逮捕が翌朝の4時40分ですから、6時間35分も時間が経っています。逮捕の場所も北九州市小倉北区で、筑紫野署の管轄地域から50キロは離れています。
もっと気になるのが、「神奈川県二宮町緑が丘の会社員」という点で、要するに、夫婦と子供が神奈川に住んでいて、奥さんが子供を連れて(略取し)福岡にまで行って、夫がそれを取り戻そうとしたという事件でしょう。「違法に子供を連れ去った事実は、親権監護権の帰趨に決定的に不利な事情となる」そうですが、奥さんの未成年者略取はどうなんですかね。実務的には、ほとんどのケースで、違法に連れ去った事実は親権の帰趨に何の影響も与えていないようですがね。「腹が減って強盗した」という例えより、「泥棒から盗まれた物を取り返したら、警察が泥棒とぐるになって逆に強盗犯とされた」という例えの方が当たっていると思います。まあ、法的には強盗なのでしょうけど。
今回実名報道になっていますが、正直「何で?」という気がします。
あと、「民事執行における子の引渡し」ISBN978-4-89628-595-6という本が面白かったですよ。
投稿: 筑紫野署いい加減にしろ | 2010/07/22 01:09
読売の元記事に
>県警が20日午前4時40分ごろ、北九州市小倉北区浅野のホテルにいた両容疑者と長女を発見。
警察が発見した時に、略取した長女と一緒にいたわけですから、「現行犯逮捕」で何らおかしくないと思いますが。
投稿: Enzo Romeo | 2010/07/22 16:25
少なくともリンク先の記事を見る限りでは、両親と子供が神奈川県で同居していたとまでは読めないのですけれどもね。
母親が子供を連れて出ていったのかもしれないし、父親が子供を置いて出ていったのかもしれないし、稀ではあるけれども、子供の出産後に両親が同居しないままに離婚調停が始まることだってありますし。
さらに、別居時に当面の子の監護について両親の間に一応の合意ができていたのに、合意を破って実力行使に出る例もままあります。
少なくともリンク先の記事だけからは、同居状態から母親が子供を勝手に連れて行ったと断じるのはいかがかと思いますが。
投稿: えだ | 2010/07/22 18:28
Enzo Romeo
刑事訴訟法212条2項3号の準現行犯逮捕が成立するには、「罪を行い終つてから間がないと明らかに認められるとき」という要件がある訳だが、6時間35分というのが「間がない」などといえるのか、という問題提起なのですが、理解できませんでしたかね。
加えて「明らかに認められる」についても、そもそも「略取した」という証拠はどこにもない訳で、子供が目を覚まして任意で父親に着いて来たのであれば略取は成立しないけど、子供がホテルの部屋にいるだけで「略取したと明らかに認められる」のですかね。
もっと言えば、警察に泊まっているホテルが分かったのはなぜでしょうね。高い確率で、子供がいなくなって母親が父親に電話し、父親が泊まっているホテルを教えたんでしょうね。そうであれば、民事不介入の世界だと思いますが。
えださん
はいはい、断定はできませんけど、常識で判断すれば90%ぐらいの確率でそういう話でしょう。
子の居所指定権は親権者が共同で行うものだから、一方の親の判断で動かせない、過去に両親が合意していた場所に凍結される、という線で考えるべきかな、と最近思います。
投稿: 筑紫野署いい加減にしろ | 2010/07/23 01:47
根拠のない推論については実益がなさそうですのでこれ以上触れませんが。
未成年者が任意について行った場合、略取ではなく誘拐になるという趣旨であれば異論はないでしょうが、略取にも誘拐にもならないというのであれば、少なくとも一般的な刑法解釈とは異なった見解ではないでしょうか。
投稿: えだ | 2010/07/23 08:01
>略取とは、暴行、脅迫その他強制的手段を用いて、相手方を、その意思に反して従前の生活環境から離脱させ、自己又は第三者の支配下に置くことをいう。
だそうですから、6時間35分経っていようが「自己又は第三者の支配下に置く」状態にあれば、現行犯逮捕は可能であるという理解ですが、おかしいですか?
いずれにしろ筑紫野署いい加減にしろ さんは推測ばかりですね。
投稿: Enzo Romeo | 2010/07/23 10:11
えださん
朝日新聞の報道が比較的父親よりですね。
http://www.asahi.com/national/update/0720/SEB201007200009.html
「同署によると、妻と長女は2009年10月に福岡県内に引っ越したという。」
母親が子供をまず連れ去ったということですね。
「未成年者が任意について行った場合、略取ではなく誘拐になるという趣旨であれば異論はないでしょうが」
異論があるでしょう。大判大正12年12月3日刑集2-915によれば「誘拐とは、詐欺又は誘惑の手段により、他人を自己の実力支配内におき、その居所を移させることを言う」ですから、詐欺誘惑がなく、任意について行った場合は、誘拐にはなりません。
Enzo Romeo
昭和58年09月27日最高裁判所第三小法廷昭和57(あ)1012は、支配下に置く瞬間までが略取でそれ以降は監禁罪としている。福岡のケースでは、現実に監禁していないし、親権者であり監護する権利と義務がある父親が支配しているのだから、監禁罪は成立しない。すると、「現行犯逮捕」があったのは、犯罪が終わった6時間35分後ということになる訳ですね。現行犯逮捕は無理でしょう。
投稿: 筑紫野署いい加減にしろ | 2010/07/24 01:00
妻と長女が引っ越した=母親が子供を連れ去ったというだけの根拠はあるのでしょうか。
未成年者が全く誘いもないのに勝手に付いていったのなら誘拐にもならないでしょうが、何らかの誘いがあったのであれば、未成年者が任意に付いていっても誘拐の成立は動かないと思います。未成年者拐取の被害者が未成年者のみだという見解に立つのであれば別ですが。
投稿: えだ | 2010/07/26 07:55
>妻と長女が引っ越した=母親が子供を連れ去ったというだけの根拠はあるのでしょうか。
3人家族なのに、なぜ妻と長女が、夫だけを置いて引越しするんですかね。普通そういうのを「連れ去り」と言うんじゃないですかね。もっとも、夫と妻の間で、分かれて暮らすという合意ができ、さらに妻が長女を連れて引っ越すという合意があれば別でしょうが、そんな状況であれば協議離婚が簡単に合意できそうなもので、離婚調停なんかになっていないでしょうし、夫が子を取り返しにくることもなかったでしょう。
「成年者拐取の被害者が未成年者のみだという見解に立つのであれば別ですが。」
未成年者のみでしょう。いつから成年者を誘拐すると未成年者誘拐の犯人になるようになったのでしょうか。
子が父親に任意に着いていくことが、そんなに不自然ですかね。
投稿: 筑紫野署いい加減にしろ | 2010/07/27 16:06
根拠のない推論についてはやはり実益がなさそうですのでこれ以上触れないことにします。
ここで刑法の議論を長々するのも如何かと思いますので、それも止めましょう。
投稿: えだ | 2010/07/27 20:27
子の連れ去り関係で是非読んで頂きたい事例です。
http://constanze.at.webry.info/201001/article_5.html
虐待する母親から逃げ出し、父親の元に行った小学生の子を、児童相談所、警察、弁護士が連携して母親の元に連れ返す。再び母親に虐待されて、父親の元に逃げ出す子。子供に「もし再び逃げ出して父親の元に行ったら、父親を未成年者誘拐で逮捕する」と言った弁護士。子供の絶望はいかばかりかと思います。
児童相談所に、いやがる子供を「保護」の名のもと暴力的に略取し、学校にも行かせず、18歳になるまで何年でも監禁できる権限があったとは、知りませんでした。
投稿: 筑紫野署いい加減にしろ | 2010/08/09 22:17