jugement:アスベスト被害と介護者の慰藉料請求権
クラッチ研磨などの際に、アスベストに曝され、じん肺となった女性と、その娘で介護を余儀なくされた女性とが、会社に対して安全配慮義務違反を理由に損害賠償を請求して認められた事例である。
アスベスト被害については、アスベストに曝されたかどうかが主たる争点だが、娘の方は、被害者が生命侵害を受けた場合でないのに近親者として慰藉料請求が認められるかが争われた。
被告会社側は、民法711条が生命侵害に限定していることをもって、慰藉料請求権は認められないと主張した。
(近親者に対する損害の賠償)
第七百十一条 他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者及び子に対しては、その財産権が侵害されなかった場合においても、損害の賠償をしなければならない。
これに対して裁判所は以下のように判示した。
被告は,原告Aに対し,粉じん作業に常時従事する労働者に対して行うべき作業環境管理,作業条件管理ないし健康等管理の義務を怠ったものであるから,安全配慮義務等に違反したものといわなければならない。また,被告によるこれら義務違反が原告Bに対する関係で不法行為に該当することも明らかである。
判決文には「また」以下の部分に特に理由が付けられていない。
以上に基づけば,原告Aは,進行性,不可逆性の疾患である石綿肺等に罹患し,現在では著しい肺機能障害を生じてほとんど寝たきりの状態にあり,治ゆの見込みがなくむしろ症状の進行が避けられず,将来的には上記疾患による死亡の可能性も高いといわざるを得ない。そうすると,原告Aの長女である原告Bにおいても,その精神的苦痛は,決して看過できるものではない。そして,原告B自身も,原告Aの上記疾患のため,同原告の発症後は,自らの仕事や家庭における家事を犠牲にして,同原告の毎日の介護,通院付添いや多数回にわたる労災申請手続等に当たることを余儀なくされ,特に平成18年から20年ころには,その負担が過大なものとなったため,仕事や健康状態に影響を及ぼしたことなどが認められる。これによれば,原告Bもまた,原告Aの介護等のため精神的・肉体的に大きな負担を受けたものと認められる。 これらの事情と原告Aに認められる損害額その他一切の事情を総合勘案すれば,原告Bの受けた精神的苦痛等に対する慰謝料は,100万円を下回るものではないと認めることが相当である。
結構、思い切った判断である。ただし、17年間築き上げたキャリアを捨てざるを得なくなった原告Bの経済的な損失を思うと、100万円なんてお涙金程度しか認められなかったという問題もあるのだが。
そういう形でバランスをとったつもりであろうか?
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