media:情報漏えいと、漏えいした情報を報じるメディア
第三者的には面白いかもしれないが、当事者としては苦悩の極みであろう。
例の日大大量情報漏えい事件のことである。
事務職員が大学のパソコンから記憶媒体に情報を移し、自宅のパソコンで仕事をしていたところ、P2Pファイル交換ソフトにより、おそらくウイルスの働きにより、大学から持ってきた情報が流失してしまった。
ここまでは、もうありふれていて、特に言及するまでもなく、情報の多さが目につくという程度であった。
しかし、流出した情報は、単なる個人情報ではなく、極めて名誉やプライバシーを危うくする情報が含まれていた。特に懲戒処分情報などは、それまで大学側が隠すポリシーであったため、関係者にとって極めて不味いことになったようだ。
参考:毎日jp:日大:懲戒処分情報などネット流出 ファイル交換ソフトで
流出したのはワードやエクセルなどのファイル。約1万4000人分の大学・付属病院職員の住所録や、事件や無断欠勤で職員を懲戒処分した際の経緯、セクハラ行為の当事者間のやりとり、大学に寄せられた苦情などが実名入りで記されていた。
このこと自体も、流出させた事務職員がこれらの機微な情報にアクセスできる地位にあったことが正当なのかどうか、問われる。情報セキュリティ的には機密情報にアクセスできる人をなるべく限定し、アクセスする際にはアクセスしたことを記録し、まして持ち出して使うことは物理的に困難な状態にしておくべきだが、それがなされていなかったようである。
もちろん当該職員が機密情報の保管責任者だったという場合は別だが。
ところで、この流出事故自体の問題ではなく、流出した情報の内容を見て、これに基づいて取材と報道をしているメディアがある。
J-CASTニュース:50代男性教授3回セクハラ? 日大の寛大すぎる対応ぶり
名簿などファイルの大量流出問題で、日大でひどいセクハラや論文盗用などが行われていた実態が分かってきた。最近退職した50代の男性教授は、2度もセクハラを指摘されながら、さらに執拗に繰り返していた。しかし、日大では、懲戒免職を公表しなかったり、論文盗用でも指導で済ませたりしていた。
「水着でビラ配りをすれば?」
「テニスでは女子生徒は全員スカートで」
セクハラの疑いが指摘された当時の男性教授は、ゼミの女子学生に対し、日常的にこんな呼びかけをしていたという。これは、日大が学生から意見聴取して出てきたものだ。
これはかなり危ない行動だ。
流出した情報について、少なくとも情報の保有主体はその情報を二次的に流通させないように求める義務と権利があろう。情報主体(例えば上記セクハラ教授)に対する関係では、流失した情報を回収し、さらなる伝播を防止するために努力する義務を負うと考えられるし、当該情報を入手した第三者に対しては、当該情報の不使用やさらなる提供中止を求める利益がある。この利益を権利といってよいかどうかは議論の余地があるが、少なくとも情報主体が情報の伝播を防止する権利がある限りにおいては、これを代わって行使することに正当な理由があると考えられる。
問題は、この流出した情報について、情報主体の名誉毀損やプライバシー侵害など、法的な人格権侵害が認められ、他人に対して情報の削除や不使用・不公開・不提供を請求する権利が認められるかどうかだ。
この点は微妙で、上記のセクハラ教授の場合、言うまでもなく公共の利害に関わる事柄で公益目的で公開し、しかも真実性が認められるとなれば、名誉毀損は成立しない。ただしプライバシー侵害は、過去の処分歴というレベルでは公開されないことに正当な利益があるといえなくもない。
論文盗用で甘い処分しか受けていない講師がいたことも判明したらしいが、その講師に関する報道もプライバシー侵害となりうるかどうか、微妙である。
ただし、いずれも大学教員としての職務に関わる事項だけに、公共の利害関心は過去の前歴にも当然及ぶとの立論も可能だし、それはプライバシーの利益を上回るとの評価もできそうだ。
いずれにしても、J-Castニュースは該当する人物の特定につながりそうな事実は報じていないので、その点でセーフである。
なお、営業秘密系統の話は今回の事案に関係なさそうだし、一応別論。
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